リライトに思うこと

リライトに思うこと

麻(2025年7月30日)

アメリカフヨウ

 40年も昔の話ですが、長年子どものための児童文庫をされている人の体験談のメモとそのメモに基づいてのある著名な作家の発言を覚えています。
 そのメモに書かれていて今でも覚えているのは「子どもの読まない名作ベストスリーは『ふしぎの国のアリス』『ピーター・パン』『ピノキオ』」という内容でした。これは統計に基づくものでもなく、またアンケートを取ったものでもなく、文庫を運営している人が、文庫の借り出し状態を何年間もずっと見てきた結果だそうです。そのメモにはこれ以外にもいわゆる名作童話は概して借り出していく率が低いとも書かれていました。
 そしてメモに書かれていた事実を聞いたある著名作家は、その理由として「推測ではあるが、たいていの名作はリライトされたものが幼児絵本やそれに類する本に出ている。それを読んだ子どもたちはずっと小さい頃に読んでしまっているから『もういいや』ってことになるのでは」と発言していました。

 周りの大人が強く薦めれば結果は違ってくると思いますが、そうでない場合は、私は、この推測は当たっていると思っています。私自身も小学校高学年の頃に講談社の全集で「三銃士」や「巌窟王」を繰り返し読んで「もうこの小説は読んだ」気になっていました。「三銃士」は「ダルタニアン物語」、「巌窟王」は「モンテクリスト伯」という小説の一部をリライトしたものだ、ということを知り、元の小説を読んだのは40歳の頃でした。小学生の頃に読んだ「三銃士」「巌窟王」は面白かったのですが、大人になってから読んだ「ダルタニアン物語」「モンテクリスト伯」はもっと面白く思ったことです。

 原作を子ども向けに書き直すことの是非、賛否、適否等については私には判りません。意見を言うことができません。子ども向けにリライトされた文章の質も大いに関係するとは思いますが。

 いま手元にあるのは「138億年のものがたり…宇宙と地球でこれまでに起きたこと全史」です。これは去る2月19日のこの欄に「○○を24時間にしたら」というタイトルで書いた「137億年の物語…宇宙が始まってからの全歴史」(文藝春秋、クリストファー・ロイド著、野中香方子訳)と同じ著者、同じ訳者、同じ発行所の同じテーマの本で、前著の10年後に発行されています。(ただ、前著では137億年だったのが138億年と1億年多くなっていますが、これは学問の進歩に基づく改変でしょう)
 違いは字体が大きくなり、難しい漢字にはルビが振られています。読者として小学校高学年や中学生を対象にしていると思いました。ちょっと目を通したところ単なる前著の子ども向けリライトではなく、新たな角度から書かれているように感じました。
 いちいち前著と比較するのは煩雑ですので差し控えますが、同じ著者が子どもを対象にしたこのような本を書くのはリライト問題について一つの解決を示唆しているのかもしれません。