風車小屋だよりと先取特権
古い外付けハードディスクの内容を整理していたら、現役の頃に新設の法務審査部門の PR のために、忙しい仕事の合間を縫って毎週2回の頻度で発信していたニュースレターの原稿が出てきた。懐かしさもあり、削除する前にちょっと目を通した。その中にアルフォンス・ドーデの「風車小屋だより」と先取特権について触れたものがあった。
先取特権について一言で説明することはなかなか難しく、一冊の専門書が書けるほどの法律用語であるが、抽象的には読んで字の如く“ある人が他の人より優先的にお金を支払ってもらえる権利”とでも言えばいいのだろうか。
ニュースレターでは「会社が取引先企業の倒産に際して自らの債権を優先的に回収する場合に先取特権は一つの方法である」ことを実務に即して具体的に書いた後「……先日必要があって先取特権についていろいろな文献を調べました。……学者の言によりますと、この先取特権という制度はフランス民法の専売特許のようなもので……」と述べ、続けてこの制度がフランスで採用された理由やドイツ法には見られないこと、イギリス法やアメリカ法にある類似の考え方などを、今から考えると、かなり硬い文章で書いていた。
このニュースレターは他社に勤務され,その後大学教授となられた企業法務の大先輩との次のような会話で終わっていた。
先取特権について一言で説明することはなかなか難しく、一冊の専門書が書けるほどの法律用語であるが、抽象的には読んで字の如く“ある人が他の人より優先的にお金を支払ってもらえる権利”とでも言えばいいのだろうか。
ニュースレターでは「会社が取引先企業の倒産に際して自らの債権を優先的に回収する場合に先取特権は一つの方法である」ことを実務に即して具体的に書いた後「……先日必要があって先取特権についていろいろな文献を調べました。……学者の言によりますと、この先取特権という制度はフランス民法の専売特許のようなもので……」と述べ、続けてこの制度がフランスで採用された理由やドイツ法には見られないこと、イギリス法やアメリカ法にある類似の考え方などを、今から考えると、かなり硬い文章で書いていた。
このニュースレターは他社に勤務され,その後大学教授となられた企業法務の大先輩との次のような会話で終わっていた。
「○○さん、ドーデの『風車小屋だより』の序文に先取特権のことがでてきますね」
「不動産売買の先取特権が出てるね。たしか、ドーデが 20 年間放置され、羽翼の先端まで野葡萄や苔が絡まった風車を持主から購入するに際し『一切の債務、先取特権、抵当権の目的ではない』ことが保証されたのだったね」
「そうですね、その他に先取特権が出てくるフランス文学はありますか」
「先取特権という言葉は出てこないけれども、モリエールの『ドン・ジュアン』には労働者の賃金債権の先取特権が出てるよ。バルザックの『ゴリオ爺さん』では葬式費用の先取特権がありありと窺えるよ。ゴリオ爺さんが死んだときに、縁もゆかりもない学生が葬式をだすのだけれどもね」
「文学にも登場するということは、フランスにおいては先取特権はかなりポピュラーなものである、ということなのでしょうね」
「不動産売買の先取特権が出てるね。たしか、ドーデが 20 年間放置され、羽翼の先端まで野葡萄や苔が絡まった風車を持主から購入するに際し『一切の債務、先取特権、抵当権の目的ではない』ことが保証されたのだったね」
「そうですね、その他に先取特権が出てくるフランス文学はありますか」
「先取特権という言葉は出てこないけれども、モリエールの『ドン・ジュアン』には労働者の賃金債権の先取特権が出てるよ。バルザックの『ゴリオ爺さん』では葬式費用の先取特権がありありと窺えるよ。ゴリオ爺さんが死んだときに、縁もゆかりもない学生が葬式をだすのだけれどもね」
「文学にも登場するということは、フランスにおいては先取特権はかなりポピュラーなものである、ということなのでしょうね」
若かりし頃にこのような文章を書いたことは全く覚えていない。今改めて読み返してみて、特に注意することもなく読み過ごしている小説の文章にも折に触れて法律用語が出ていたのだなあ、と思ったことである。
50 年以上もお付き合いがあり、私の論文原稿に目を通してもらったり、法律論・法律問題を肴に盃を酌み交わしたりした数は知れないこの先輩も先日 96 歳で天寿を全うされた。その半年ほど前に送られてきた口述筆記の手紙に添えられていた写真は満開の桜の下で車椅子に乗ったダンディな姿だった。
50 年以上もお付き合いがあり、私の論文原稿に目を通してもらったり、法律論・法律問題を肴に盃を酌み交わしたりした数は知れないこの先輩も先日 96 歳で天寿を全うされた。その半年ほど前に送られてきた口述筆記の手紙に添えられていた写真は満開の桜の下で車椅子に乗ったダンディな姿だった。