「させていだだく」

「させていだだく」

啓(2024年1月31日)

 この「させていただく」については、 2020年11月11 付のこの欄で、私は「私の大嫌いな語法」と書き、丸谷才一氏が「桜もさよならも日本語」の中で「現代日本人はあの慇懃無礼に恩を買ふ……欺瞞的低姿勢の語法をもう少し慎むほうがいいと思ふ」としていることを紹介した。
  2023年4月16 日付の読売新聞朝刊の「広角多角」欄で編集委員の森川暁子氏が「『させていただく』 使いどころは?」とのタイトルで紙面の三分の一を使って文章を書いているが、正直に言って何を言いたいのか、がはっきりしない内容となっている。私もこの問題は論点が多くとても難しい問題で簡単に短く纏めることはできないとは思っているのだが。
「個人的には連発をやめようと思っている」ことと「正解はマニュアルでなく、相手と自分の間にある。そこが難しく、面白い」が森川氏の結論なのだろうか。
 森川氏の論稿のなかで紹介されていた法政大学文学部教授の椎名美智氏の「『させていただく』の語用論――人はなぜ使いたくなるのか――」(ひつじ書房)と「『させていただく』の使い方 日本語と敬語の行方」(角川新書)の2冊を図書館から借り出した。
 前者は著者の博士論文をもとに加筆修正された専門書であり、とても私の手に負えるものではなかった。関心のある部分だけを誤解をしないよう注意しつつ、つまみ食いならぬつまみ読みをしただけである。後者は前者にもとづいて書かれた一般書であり読み易い文章で書かれているが、テーマがテーマだけに慎重に読む必要があった。これらで述べられている数多くの調査方法や調査結果そしてその分析を完全に理解できたとは思っていない。
 後者に現れる種々の場面における「させていただく」の実態調査、意識調査を読んで、これほど多くの場面で使われているのか、と呆れると同時に、それぞれの場面におけるニュアンスの違いにも少なからず驚いた。例えば SMAP 解散時の「解散させていただくことになりました」とⅤ6解散時の「僕たちⅤ6は……解散します」にも解散に際してのニュアンスの差異があるという。
 また

「させていただく」は謙譲語がなかったり、「お……する」を使ってへりくだった表現が作れない言葉(例えば、帰る・使う・参加する・変更する、など)では、「させていただく」を付けると「帰らせていただく」「参加させていただく」というようにへりくだる言葉が作れる。

との国語辞典編纂者の飯間浩明氏の指摘(著者の文中に引用されていた)は目を開かせてくれた。私は今までこのようなことを考えたことは無かった。単に敬語の知識が乏しく、何でもかでも「させていただく」を使っているのだと思っていた。
 おわりにの項で著者は「言葉は時代と共に、そして私たちの言語意識に合わせて変化していきます。……そもそも『させていただく』が使われるようになったのも、他の敬語が使えなくなったからにほかなりません」と書いている。私も適切な敬語を使えなくなった結果汎用的な「させていただく」のオンパレードになったのはその通りだろうと、著者の指摘に同意しながらも、それなら適切な敬語を使えるように勉強するのが第一だろうと考えている。