ちいさな本

ちいさな本
M・M(2026年8月5日)

 地方の個人書店の店主が本を出版したと友人の手からその本が届いた。

 ちいさな本だ。
「祖母と孫による詩のような対話」の本。
 祖母は90歳を過ぎたころ。その孫と語り合いながら、祖母の記憶から孫がことばを紡いでいく。祖母の語りは、幾度となく繰り返される。詩のようだ。

「先生の傘」

 あのさ
 あの
 うん
 あの話好きなんだよね
 うん?
 あの、朝、学校に行ったら
 うん
 先生の傘が盗まれたって大騒ぎになって
 ああ
 あはは
 そうそう
 あれ、よく覚えているね
 うん
 あの話好き
 あれね
 あはは
 まだ小さかったからね
 うん
 わからなかったのよね
 うんうん
 先生の傘がさ
 なくなったって
 朝、学校に行ったら大騒ぎで
 うん
 綺麗な花柄の傘だったから
 うん
 盗まれたんだろうって
 先生も大事にしていた傘だったから
 すごくショックを受けていて
 うん
 だけどそれ
 私だったのよね
 うん
 あはは
 そうだよね
 前の日に雨が降っていたから
 帰り道のお花が濡れちゃうと思って
 うん
 ちょうど綺麗な傘が置いてあったから
 それ持ってさ
 お花にかけてあげたのよね
 うん
 かわいいね
 濡れちゃうと思ったんだ
 そう
 濡れたらかわいそうと思って
 うん
 そしたら翌朝、学校に行ったら大騒ぎだったから
 なんのことかと思ってね
 うん
 悪いことしたなんて思わないじゃない
 子どもだから
 うん
 ツルちゃんだったのって
 先生も言ってね
 うん
 なんでかあんまり怒らなかったね
 うん

 お祖母さまは那覇市でお生まれになり、幼い時にご両親を次々と亡くされ、お一人で生活をはじめておられる。「先生の傘」の先生は、境遇を知っておられたので、怒ることはなかった。その時代の背景は、私たちには想像もつかない。お祖母さまはその他の項で繰り返し「戦争はしちゃだめよ」と語っておられる。お孫さんが90年余りの人生を「本にしたい」と伝えるとツルちゃん(祖母)は「喜んで」とおっしゃたそう。よくぞ本にして下さった。
 私の孫に残したい本が一つ増えた。どのように入手したかも書いて挟んでおこう。