ZINE 夏の海の詩

ZINE 夏の海の詩
M・M(2026年8月19日)

立秋のころ、ZINE(ジン)を受け取った。

「秩序の概念 キーウェストにて」 ウォレス・スティーヴンズ著(翻訳版)

彼女は海というものの真髄を越えて歌った。
水は思考にも声にもならず
いわばどこまでも身体でしかない身体で、うつろな
袖を振っていた。その物真似めいた動きも
たえまなく叫び、たえまない叫びを発していたが
理解できるとしてもそれはわたしたちに属さない
人とは異質な まぎれもない大洋のものだった。
 ……

ウォレス・スティーヴンズは20世紀の英語詩人のなかでもとくに難解で
知られており、読んでなんとなく雰囲気だけでも味わっていただけたら …
と、言葉が添えられていた。

「夏の海の詩」と言うことは、なんとなくわかる …
なんとなくわかるので、なんとなく海や海で歌う彼女を想像する。
彼女の声は波と交わるのか、海は彼女を受け入れるのか …
どうやらそうではなさそうだ。

海は仮面ではなかった。彼女もまた。
彼女が聞こえたとおりに歌っていたとしても
歌の音と水の音とは混じり合わなかった
 ……

歌と水は混じることがない。彼女は彼女、海は海 …
彼女の歌声に海が寄り添ったとは書いていないようだ。

彼女は自分が歌う歌を自分で作った。
つねに頭巾をかぶり、悲劇の身ぶりをする海は
彼女が歩き歌う舞台にすぎなかった。
 ……

海は舞台であり、海でしかない。

響いてきたのが 海の暗い声 あるいは
せいぜい無数の波に着色された声にすぎなければ、
もし 空と雲や 水に囲まれて沈む珊瑚の
うわべの声にすぎなければ、
 ……

果てしない海は海でしかなく、決して彼女(人)と交わることは
ない。「珊瑚のうわべの声」とは …なんとなく神秘的だ。

          消えかかった空をもっとも
鋭敏に描いたのは彼女の声だった。
彼女は空の孤独をそのひとときに形にした。
ひとりきりで世界を作る職人として
そこで歌っていた。彼女が歌うとき 海は
 ……

海に向かって、または海で歌う彼女の創作の様が見えるようだ。
海、彼女、わたしたちは彼女を認める。彼女の歌を、彼女の声を。
彼女の詩(言葉)を。

ラモン・フェルナンデスよ、教えてくれ もしわかるなら
なぜ 歌が終わって私たちが身をひるがえし
町へと歩いてゆくときに なぜガラスのような光、
そこここに停泊していた漁船の光が、
夜の訪れるなか 宙空で上下に揺れながら
 ……

ラモン・フェルナンデスとは誰だろう。
語呂合わせの良い言葉の響きなのだろうか …フェルナンデス!
夜の顔の海。

ああ!秩序を求める激しくも聖なる怒りだよ、青ざめた
ラモン 作り手の怒りが言葉で定めたんだ 海と
 ……

スティーヴンズの怒りの最終の章なのか …
寄せては返す秩序を保つ海の代弁者、言葉をはなつことがない海よ、
言葉を持つ我々がイメージで決めてしまって良いのか。

詩は書写をすることにより、より近づける気がする。
かつてキーウェストの海を見た家人のことを翻訳者に伝えたところ、
「スティーヴンズは旅行や出張でたびたび行っていたようですね」と
返信があった。しかし、この海はキーウェストの海でなく、大洋に
当てはめても良さそうだ。因みに、モダニズム詩人スティーヴンズと
行動派ヘミングウェイが彼の地で殴り合いの喧嘩をしたことがある
…は調べた。なんとなくわかる気がした。