江戸時代の科学捜査

江戸時代の科学捜査
麻(2026年8月19日)

 京都府警察本部の刑事部に設置されている科学捜査研究所(科捜研)の活躍をテーマにした「科捜研の女」という一話完結の連続テレビドラマがありました。ちょっと調べて見ましたら1999年から2024年までの長期間に亘って何と289回放映されていたようです。私も時間があるときは視聴していました。

 つい最近に送られてきた市立図書館のニュースレターで図書館員の一人が「江戸の検屍官」(川田弥一郎、祥伝社)を紹介していました。その内容は「江戸時代、検屍の手引き『無冤録述』を片手に死体改めに熱意を傾ける同心がいた。北町奉行所定町廻り同心、北沢彦太郎。医者の古谷玄海、絵師のお月とともに、精密な検屍で得られた証拠から事件の謎を解き明かす。‥‥‥著者が医師だけあって卓抜したトリックが楽しめる時代医学ミステリー」とあります。
医師で作家という人物としては森鴎外、渡辺淳一、斎藤茂太、北杜夫各氏が思い浮かびますが、最近では医師資格を有する作家が何人か誕生しているようです。作品を読んだか否かは別にして、順不同で海堂 尊、知念実希人、夏川草介、南 京子、久坂部 羊各氏などは名前は聞いたことがあります。
 そう言えばシャーロック・ホームズの生みの親のコナン・ドイルも医師でした。

 閑話休題
 ニュースレターを見たときは「ふーん、現代の医師による江戸時代の犯罪捜査を描いた本か」「(拷問により白状させることも多く、そしてまた冤罪も多かったのだろうが)江戸時代にも現代の科学捜査に近いものがあったのだろうか」「江戸時代の検屍はどのようなものだったのだろう」「解剖はできなかったに違いない」「絵師が描く絵は現代ではモンタージュ写真に相当するのだろうか」等と思っただけで、特に関心を抱くことはありませんでした。が、銀行へ行った序でに隣接の図書館に立ち寄った際に、おぼろげな記憶をもとにこの本を探し出し、借り出しました。

 短編小説6話からなるこの本は、当時では科学的だと思われた方法、そして現代にあっても納得できる方法、による証拠を積み重ねて犯人を探し出す話でそれなりに面白く読みました。殺人事件の解決が主題となっていることからやむを得ないとは思いつつも、私がかつて読んだ江戸時代を舞台にした小説の多くにあった「読後の爽やかさ」を感じることがなかったのは残念に思ったことでした。
 しかし、これは隴を得て蜀を望む類かも知れません。

 主人公が検屍に際して常に参考にしていた書物として「無冤録述」というのがしばしば登場し、現実に存在した文献か作者が生み出した架空の文献かが気になっていましたが、最後に参考文献として「江戸時代犯罪・刑罰事例集」(柏書房)が掲載されていました。インターネトでこの書物を検索しますと、その中に「無冤録術(述の誤植か?)」と言う項目がありました。
 また「無冤録述」については、広島大学の研究者による論文に「本分野については、江戸時代に、中国元代の有名な法医学書、検屍報告書である『無寃録』の国内向け摘訳書として『無寃録述』が刊行され、爾後、同書が大いに利用されて、明治中後期に至っている」とありました。なお、「冤」と「寃」には意味に差はないようですが、原典では「寃」とあるとのことでした。