「想い出の流行歌」

「想い出の流行歌」

啓(2023年1月18日)

 書棚の片隅から文庫本の大きさの昭和52年発行「想い出の流行歌」(新興楽譜出版社)が出てきた。奥付には日本音楽著作権協会承認第○○〇番の記載と共にJASRUCの証紙が貼られており、著作権処理はきっちりとなされていることを窺わせる。内容はと言えば昭和3年の「出船」「波浮の港」から昭和35年の「霧笛が俺を呼んでいる」「さすらい」まで438の歌謡曲の歌詞だけが並んでいる。昭和52年改訂第九版発行とある。
 買ったことは覚えているが、どのような折に、どのような気持ちで買ったのかは全く記憶がない。幾つかの歌詞にチェックが付されているが、それらから何かが分かるというようなものではなかった。
 もともと私は自分自身を音痴(近年の動向から考えて、この言葉を使用するのはよくない、といわれそうなので「調子外れ」と書き換えるべきだろうか)だと思っており、カラオケは頭から敬遠していた身であるから、カラオケに関連することがこの本を買った理由ではないこともはっきりとしている。
 買った理由は思い出せないが、処分にあたって中味を眺めているとなかなか面白い。何よりも多くの歌にあっては言葉が綺麗である。ほとんどが大和言葉である。同じことを言う場合でもいろんな種類の表現が適切に使われている。一番から二番、三番と歌詞を読んでいくと少しずつ違った言葉や表現が使われ、場面や情景や心理の移動が目に浮かぶようである。
 順不同で幾つかの歌詞を頭の中で曲を思い浮かべながらゆっくりと読んだ。
 私はこのような気持ちで歌詞を読んだのだが、何時だったかラジオで懐かしのメロディを聞いている時に、傍にいた孫が「暗い」「陰気だ」というような意味の言葉を発したのを思い出した。
 現在の若者の間で流行している音楽には疎く、全く知識がないが、ひょっとしたらそれらは歌詞もさることながらメロディが評価されているのかも、と思ってしまう。
 手当たり次第に眺めたが、ほとんどの歌詞とメロディを知っていることに気が付いた。そして幾つかの歌詞からはラジオを聞きながら勉強していた受験時代を思い出した。
 このような経緯を経て、この本について処分はもう少し後にしようとの救済措置を取ることにした。「このようなことをするから書庫の整理が捗らない」と思いながら。