本が売れなくなった

本が売れなくなった

KEI(2022年11月2日)

 仕事の関係で相知り、その後も仕事を離れて親しくしている東京在の若い友人からメールが入った。仕事で大阪に来るという。「朋あり遠方より来たるまた楽しからずや」ということで昼食を共にし、いろいろと話を聞いた。
 彼は私より 10 数歳若く、現在では法律関係書籍を出版する会社の社長を務めている。一昨年度、昨年度の売り上げや収益の話もしてくれたが、成績はそこそこで従業員にも賞与をきっちりと出したという。他人事ながら喜ばしいと思ったことである。
 食事をしながらいろいろと話をしたが、印象に残っているのは彼の「一般論としての話だが、本が売れなくなった」という発言である。確認はしなかったが、社会科学関係の専門書のことを言っていたようだった。
 例としてある難関国家試験の受験生の部屋を覗いたところ、参考とすべき専門書は一切なく、本棚にあったのはその国家試験の予備校の教科書だけだったという話をしてくれた。しかもそのような状態の受験生が試験には合格したとか。
 また、専門家の中には意見書を書くのに、基本的な電子書籍とその検索ツールだけを使い、必要な情報を得る人もいるという。その結果、意見書の内容やその優劣に大きな差ができているそうだ。  友人は食事の場では相応しくないと言いながらこのような話をしてくれた。
 知人の元大学教授は、大学生が専門書を買わず、図書館の本で間に合わせていることを嘆いていた。同じようなことを書いたエッセイもどこかで読んだ記憶がある。
 これらは一つの例であろうが、確かに紙媒体の専門書の売れ行きは芳しくないようだ。本当にそうなのか総務省統計局のホームページから「書籍新刊点数」の「社会科学部門」のデータに当たった。平成29年から令和元年までは15,422、15,220、15,482と1万5千を超過した数字が並んでいるが、令和2年は14,068となっている。前3年に比し新刊発行点数は1割弱減っている。
 因みに全部門の数字も73,057、71,661、71,903、68,608と年を追うごとに減少している。
 販売額については、社会科学部門だけの書籍販売額の推移についての数字を見つけることはできなかったが、書籍全体の販売額については見事に右肩下がりの状態である。社会科学部門にあっても例外ではないだろう。売れないことと新刊発行点数の減少は無関係ではあり得ない。
 ただ、児童書や学習参考書は毎年伸び続けているそうだ。となるとその他の部門の新刊発行点数や販売額の減少は推して知るべしであろう。
 また、出版指標年報 2022 年版によると電子出版も含めた 2021 年度の推定販売金額は16,742億円であるが、そのシェアは紙書籍(40.6%)、電子コミック(24.6%)、紙雑誌(20.2%)、紙コミックス(11.0%)、電子書籍(2.7%)となっている。因みに 2014年 の紙書籍のシェアは43.8%で、電子書籍のシェアは1.1%であり、紙書籍のシェアが減少する一方で電子書籍のシェアは増加している。
 友人の「本が売れなくなった」との述懐から、友人の属する業界の書籍新刊点数や右肩下がりの状態にある書籍販売金額に占める紙書籍の割合などを興味本位で調べてみた。ちなみに我が家の書籍における電子書籍のシェアは0%である。