「旅の絵本」のこと

『旅の絵本』のこと

けふばあちゃん(2022年5月1日)

 腰が痛い、膝が痛い。今日の散歩はやめ!ということも増えてきた私ですが、2,30年前は、まだ、あちこち旅もしたい。
できれば、文庫本数冊とスケッチブックを持って、ふらっと気ままな一人旅がしてみたい。レンタカーを借りて、行き当たりばったりの旅でもいいなぁと、ぼんやり考えていたことがあります。
  今となっては、夢ですが・・・・。そんな時、安野光雅さんの『旅の絵本』を引っ張り出して、ヨーロッパ、イギリスやフランス、イタリア、オランダの田舎であったり、アメリカを西から東に横断したり、と、ひとりの旅人と一緒に絵本の中の旅に出かけます。
 一艘のカヌーでやってきた旅人は、舟を降りると一人の農夫から馬を分けてもらいます。その馬に乗って、森の中をぬけ、ワイン畑で働く農場の横を通り、教会のある村に入ります。
 引越しの荷物を運ぶ人、ポストから郵便を袋に詰める郵便やさん、結婚のプロポーズをしている若者、お墓参りの婦人と眺めていって、学校のそばを通る頃には、前のページの郵便やさんが郵便局に袋をかついで運び込んでいる。子どもたちの徒競走を、しばし馬を下りて応援する旅人。
風景の中に、ゴッホの「跳ね橋」やスーラの「グランド・ジャッド島の日曜日の午後」の絵、セザンヌの「水浴」の人たちを眺めながら村を抜け、町の中へ。
広場のカフェでくつろぐ人、路上マジックを楽しむ人、結婚式あり、お祭りあり、パレードあり、汽車の走る駅前を通って、汽車を横目にのんびりと旅を続けます。
そしてまた、田園風景の中、ドンキホーテやイソップの犬、ミレーの「落穂ひろい」「晩鐘」、そんなこんなをながめながら旅人は、馬を乗り捨てて、徒歩で夕焼けの丘のむこうに、去って行くのです。
 とまあ、旅人と一緒にのんびりと絵の中を旅すればいいわけですが、じっくり絵を見て、目を凝らして、心を開いて、時には魚の目鷹の目で、よおく観ると、舟から降りた時に飛んでいた二羽のハトは、数ページ登場して、愛を育み子育てをする。
引越しの荷物を運んでいた家族は、数ページ先の町で引越し荷物を下ろしている。一人の女性をめぐり恋の決斗あり、葬式に結婚式、新婚旅行に出かける馬車と、ドラマも展開していきます。
窓からベートーベンが顔をのぞかせていたり、「三匹のこぶた」「おおきなかぶ」「ハーメルンのふえふき」「あかずきん」などの昔話の登場人物やセサミストリートの登場人物などが、あちこちに、他にはいないか?どこに隠れているか?と探すたのしみ。
「ふしぎなえ」の安野さんよろしく平面と立体がこんがらがっているのに、なんの違和感もない等々、何度見てもその度に新しい発見があって、おもしろいのです。
 これは、『旅の絵本』Ⅰですが、1977年4月発行、それを私は、5月29日に駸々堂で見つけて買っています。よっぽど嬉しかったのか、本にメモっていました。
『もりのえほん』は、息子たちと頭をくっつけ合って楽しみましたが、この『旅の絵本』は、私だけのひとり旅を楽しむ本です。
『旅の絵本』Ⅱ(イタリア編)Ⅲ(イギリス編)Ⅳ(アメリカ編)Ⅴ(スペイン編)Ⅵ(デンマーク編)Ⅶ(中国編)Ⅷ(日本編)Ⅸ(スイス編)そして、安野さん没後に見つかって、今年1月に発行されたⅩ(オランダ編)まで、一冊一冊買い求めて、(今日はどこの国を旅しようかなぁ)
安野光雅さんしか分からないロンドンの編集者の家、というのもあるらしいのですが、私は、私の旅をこの字のない絵本でさせてもらっています。まだ見つけていないドラマや隠し絵を探しながら。