ちょっと変わった辞書・英和辞典

ちょっと変わった辞書・英和辞典

KEI(2022年3月23日)

 手元には大中取り交ぜて、また子供が使っていたものも含めて11冊の英和辞典・英英辞典がある。同じものもあるが、これは会社用と自宅用に買ったものでリタイアした時点で会社から持ち帰り書棚に並べた結果である。これらの辞書はリビングの書棚、書斎の書棚に分けて置いている。使い慣れた一冊は机の上に国語辞典、漢和辞典と並んで置かれている。
 これらの中に普通の人の書棚には置かれていないと思われるちょっと変わった辞書、あるいは変な英和辞典がある。
 その内の一つは「アメリカの雑誌を読むための辞書」(坂下 昇・水上峰雄・高田正純編著、新潮選書)で、帯には「本書は『タイム』『ニューズウィーク』からジャーナリスト特有の語彙を中心に選び、アメリカ人の考え方を探ったニュータイプの辞書です」とある。
 丁寧に読んだ、よく使ったという訳ではないが、私はこの辞書から幾つかの単語について、言葉の字面の意味よりも、その背景となる知識を学んだ。
 例えば、energy(エネルギー)という用語では5頁を費やして代替エネルギー源から石油輸出国機構、パイプラインの種類まで説明している。
 cite(引用する、言及する)という単語の説明では「記者がある記事をまとめる際に、材料として、直接目撃(eye witness)したこと、談話(statementやinterview)、資料や文献からの引用の3つが考えられる、つまり・・・quote(引用)する必要がある訳でそのための語彙がかなりある」としてrefer to、mentionなど8つの引用に関する言葉を挙げている。そして「こうした言いかえの言葉に注意すると、ニュアンスがよくわかるようになる」と書く。
 最近の我が国の大手メディアの記事では、語彙が少なくあまりにも多くの画一的な表現を目にする、と思っているのは私だけだろうか。
 もう一つは「アメリカ俗語辞典」(ユージン E.ランディ編、堀内克明訳編、研究社)である。
 この辞書は上司に美味しいお酒をご馳走になっていたときに話題に上ったものであり、上司の「先週この辞書を買った。とても面白い」という言葉につられて買ったものである。英和辞典としては、役に立ちそうもないとは思ったが、アメリカの俗語についての日本語訳が極めて広範に書かれており、これを読むだけでも結構面白い。
 例えば、tripは普通には「旅」だが、この辞書は「(麻薬を飲んで)陶酔する」から始まって麻薬関連の意味のオンパレードである。また、motherでは、最初に「相手を侮辱する(けなす)呼びかけ」との訳がでてきて、目を疑った。3番目に書かれているこの言葉の意味は驚くなかれ「麻薬の売り手」である。
 どのような人物がこの辞書を作ったのか、気になった。訳編者の序文では、原編者は開業臨床心理学者であり、大学の心理学の講師でもあると書かれていた。
 そしてこの辞典を作った動機として原編者は、女性の麻薬患者の治療中に「彼女と私とは意志を通じさせているものの、ふたりともあるレベルの英語で話をしているということがはっきりしてきた。その言葉は、麻薬使用者に共通なスラングと警官が普通に用いる略語から成り立っていた」と書いている。
 結果的に、彼は多くの心理学者や精神科医やソーシャル・ワーカーの通訳のような立場になり、電話で説明したり通訳したりする時間を節約する意味で語句のリストを編集し始めた。その結果がこの辞典であるという。
 一方、訳語である日本語の俗語や隠語ついては関連する文献調査の他大学生を中心に約7,000人の協力を得たそうだ。編訳者は「すべての俗語辞典がそうであるように、本辞典も四文字語(four-letter word)と呼ばれる卑猥なことばや各種の侮蔑的なことばといった常識的な意味での『好ましからざる』ことばを多数収録している」ことにつき、辞典として客観的に記述していることを断り、編者や出版社の品位と結びつけることはご容赦願いたいと書いている。
 辞典の性格として当然のことだろうと思うが、このような断り書きが必要な、心に余裕のない、堅苦しい世の中は願い下げたいとは思う。