挨拶はむづかしい
ゴルフにそれほどの関心は抱いていない私ではあるが、2021年4月12日(日本時間)アメリカ合衆国ジョージア州のオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブで開かれているマスターズ・トーナメントの最終ラウンドについては、その行方をテレビ画面を通して手に汗を握って見ていた。
いろいろと波乱はあったが結局は、我われの期待どおりに松山英樹さんが優勝した。10度目の挑戦だった。この快挙をスポーツ紙のみならず一般紙も大きく報じた。
表彰式での松山さんの挨拶について、日本人の私としては特に違和感は抱かなかった。ただ、通訳を介していたのであるからもう少し長く話した方がよかったとは思ったが、悲願の優勝を手にし、嬉しさやその他の名状しがたいいろんな感情が渦巻いている中での挨拶としては理解できた。
しかし、テレビを見ている多くのアメリカ人や招待され彼のラウンドを見、表彰式に立ち会った人びとはもの足りなさを感じたかも知れない。
主催者やトーナメント開催に協力した多くの関係者、ここに集まってくれた人々、さらにはこの大会の数多くの先輩諸氏に対する感謝の念を述べ、そして対戦相手を褒め称え、最後に優勝できて嬉しいと発言する、これが彼(か)の国の優勝者の弁である。
テニスの大坂なおみさんの2020年全米オープンでの優勝スピーチは素晴らしいものだった。小さい頃からアメリカで育って、その文化を身に付けているアスリートだからこその挨拶だと思った。
このことから、私は丸谷才一さんの「挨拶はむづかしい」(朝日新聞社)を思い出した。保有している丸谷さんの本は全て処分対象外とし書庫に保管してあるので、簡単に探し出すことができた。
この本は、いろんな席での丸谷さんの挨拶を纏めたものである。結婚披露宴の媒酌人としての挨拶からスタートし、芥川賞贈呈式での挨拶、葬儀での弔辞、米寿を祝う会での祝辞、亡母の法要での謝辞、出版記念会での祝辞、自己紹介、展覧会レセプションでの挨拶、パーティでの乾杯の挨拶、偲ぶ会での挨拶、結婚披露宴への祝電等々38が紹介されている。
それぞれの挨拶文の前には、経緯や事情その他関連する情報が数行の文章で付記されている。
そして、最後には「日本人の挨拶」と題した野坂昭如さんとの面白く示唆に富む30頁の対談が付されている。
このような本が出来たのは挨拶をするに際し丸谷さんが必ず原稿を作っておられたからである。
原稿を作ることについて丸谷さんは野坂さんの質問に答えて、初めての媒酌人(野坂昭如さんの結婚の媒酌人だった)の際に「仲人が変な話をしてはいけないという気持があって」原稿をつくったことと「うんと偉い先生を偲ぶ会で、中くらいに偉い人」が5分と言われていたのに30分挨拶したこと、という体験から「とにかく原稿さへ書けば、迷惑を懸けなくて済むと思って、あらかじめ用意するやうにしたんです」と言っている。そして原稿は「ある程度の年になると、ものを取っておきたくなるんですね」という気持の結果、保存されていた。
その後、丸谷さんが、原稿を手に挨拶されるのが注目され、丸谷さんの挨拶を纏めて本を作ろうという話が持ち上がったそうだ。そうなると、突然指名されて挨拶したようなときは、帰宅後にしゃべったことを書いておかれるようになったという。
一般的には挨拶は紋切り型が多く退屈なものである。ところが掲載されている丸谷さんのそれぞれの挨拶は、目的をきっちりと押さえつつも一つのエッセイのような趣がある。
いろいろと波乱はあったが結局は、我われの期待どおりに松山英樹さんが優勝した。10度目の挑戦だった。この快挙をスポーツ紙のみならず一般紙も大きく報じた。
表彰式での松山さんの挨拶について、日本人の私としては特に違和感は抱かなかった。ただ、通訳を介していたのであるからもう少し長く話した方がよかったとは思ったが、悲願の優勝を手にし、嬉しさやその他の名状しがたいいろんな感情が渦巻いている中での挨拶としては理解できた。
しかし、テレビを見ている多くのアメリカ人や招待され彼のラウンドを見、表彰式に立ち会った人びとはもの足りなさを感じたかも知れない。
主催者やトーナメント開催に協力した多くの関係者、ここに集まってくれた人々、さらにはこの大会の数多くの先輩諸氏に対する感謝の念を述べ、そして対戦相手を褒め称え、最後に優勝できて嬉しいと発言する、これが彼(か)の国の優勝者の弁である。
テニスの大坂なおみさんの2020年全米オープンでの優勝スピーチは素晴らしいものだった。小さい頃からアメリカで育って、その文化を身に付けているアスリートだからこその挨拶だと思った。
このことから、私は丸谷才一さんの「挨拶はむづかしい」(朝日新聞社)を思い出した。保有している丸谷さんの本は全て処分対象外とし書庫に保管してあるので、簡単に探し出すことができた。
この本は、いろんな席での丸谷さんの挨拶を纏めたものである。結婚披露宴の媒酌人としての挨拶からスタートし、芥川賞贈呈式での挨拶、葬儀での弔辞、米寿を祝う会での祝辞、亡母の法要での謝辞、出版記念会での祝辞、自己紹介、展覧会レセプションでの挨拶、パーティでの乾杯の挨拶、偲ぶ会での挨拶、結婚披露宴への祝電等々38が紹介されている。
それぞれの挨拶文の前には、経緯や事情その他関連する情報が数行の文章で付記されている。
そして、最後には「日本人の挨拶」と題した野坂昭如さんとの面白く示唆に富む30頁の対談が付されている。
このような本が出来たのは挨拶をするに際し丸谷さんが必ず原稿を作っておられたからである。
原稿を作ることについて丸谷さんは野坂さんの質問に答えて、初めての媒酌人(野坂昭如さんの結婚の媒酌人だった)の際に「仲人が変な話をしてはいけないという気持があって」原稿をつくったことと「うんと偉い先生を偲ぶ会で、中くらいに偉い人」が5分と言われていたのに30分挨拶したこと、という体験から「とにかく原稿さへ書けば、迷惑を懸けなくて済むと思って、あらかじめ用意するやうにしたんです」と言っている。そして原稿は「ある程度の年になると、ものを取っておきたくなるんですね」という気持の結果、保存されていた。
その後、丸谷さんが、原稿を手に挨拶されるのが注目され、丸谷さんの挨拶を纏めて本を作ろうという話が持ち上がったそうだ。そうなると、突然指名されて挨拶したようなときは、帰宅後にしゃべったことを書いておかれるようになったという。
一般的には挨拶は紋切り型が多く退屈なものである。ところが掲載されている丸谷さんのそれぞれの挨拶は、目的をきっちりと押さえつつも一つのエッセイのような趣がある。