お名前は?

お名前は?

KEI(2022年1月12日)

 本が大好きな姪とこれまた本大好き人間の叔父との会話である。どの本に書かれていたのか、読んでいてとても楽しかったので、今でも内容を覚えている。
 姪は何かの余興で“坊っちゃんクイズ”をしたという。「叔父さんには難しいかな」、と侮るので、叔父は「漱石は小学生以来の我が愛読書」と大口をたたく。「坊っちゃんのばあやの名前は?」、「ばあやの好物は?」、「坊っちゃんの好物は?」といった私でも答えられる質問から始まって「坊っちゃんが松山へ発つとき、駅でばあやから餞別に貰った三つの物」、「坊っちゃんが寝る時の癖」などと私には難問もあった。が、叔父さんは全てきっちりと答えた。
 このように書きつつ、最後に「して坊っちゃんの本名は?」という問題が出され、叔父さんは兜を脱いだ。姪は笑って答を教えてくれない。
 このような話だった。
 川端康成の「伊豆の踊子」にも名前がある。記憶によると物語の最後に踊子の名前が「薫」であることを旅芸人一座の栄吉が餞別の一つとして口中清涼剤のカオールを渡しつつ、教えてくれる場面があった。
 竹取物語でかぐや姫を育てた竹取の翁にも名前がある。その冒頭に「今は昔。竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて、竹をとりつゝ、萬の事につかひけり。名をばさかきの造となんいひける。」とある。私の手許の本には「さかきの造(みやっこ)」と書いてあるが、「さぬきの造(みやっこ)」との表記もあるらしい。
 話を元に戻そう。姪による最後の難問について、叔父さんは多分「坊っちゃん」を読み直したに違いない。
 私の答は「夏目金之助」というのだが、多分叔父さんもそう考えただろう。
 姪は何を正解としたのだろう。まさか弘中又一を正解としたのではあるまい。広中又一とは漱石とほぼ同時期に愛媛県尋常中学校で数学を教えていた教師の名前である。