1冊で1000冊

1冊で1000冊

KEI(2021年7月14日)

 現役の頃、たまに若い友人からある特定のテーマについて読むべき本、あるいは参考にすべき文献の紹介を頼まれることもあった。そのようなときは、何冊かの本を選び、基本的な書物はこれ、手っ取り早く概要を知るにはこの本、最近の研究成果はこの論文集などとその特徴を踏まえて話していた。
 手元には現在テレビ画面でもお馴染みの宮崎哲弥氏の「1冊で1000冊 読めるスーパー・ブックガイド」(新潮社)という俗な表題の著書がある。この本の表(おもて)表紙の裏には宮崎さんのサインが書かれている。私は昔から宮崎さんのファンであるが、わざわざサインを貰うような趣味もない。書店で「サイン本」として売られていたのを買ったのだろう。
 この本は一言で言うと極めて優れた読書指南本あるいは読書案内本である。
「日々生起する事件や事故、社会問題から『お題』を抽出し、その関連書籍を紹介し、評釈を加えて」いる。氏の言によると「テーマに関係する10冊から20冊ほどの対象書をリストアップし、本を集め、四日ほどで卒読し、冊数を絞り込み、再読し、それらの位置付けを示し」たものである。週刊誌連載という性格上、この作業を一週間でしたそうだ。驚くべき読書能力であり読書量である。(私はここで言われている“卒読”という単語の意味を知らなかった。広辞苑で調べると「本をざっと読み終えること」とあった)
「新世紀教養講座」と題して135回、「ミヤザキ学習帳」として119回、合計254回即ち254週の成果が並んでいる。
 前者について言えば、例えば異常気象について第120回講座として「世界的異常気象は環境危機か?地球温暖化への真っ当な異論」との表題のもと、「異常気象はこう読む」(浅井富雄、小学館文庫)、「モルジブが沈む日」(B・リース、NHK出版)、「環境危機をあおってははいけない」(B・ロンボルグ)、「地球温暖化」(伊藤公紀、日本評論社)、「地球温暖化の真実」(住明正、ウェッジ)を取り上げ、1頁約770字でそれぞれの内容と宮崎さんの意見を要領よく説明している。
 そして後者では、例えば、2005年4月25日に起きたJR西日本福知山線脱線事故については、「血で錆びた鉄路――鉄道事故との戦いの歴史を振り返る」との題のもと、十字の横軸左側に「安全重視」を、右側に「効率重視」を取り、縦軸上部に「技術」、下部に「制度」を取った四角形に、絞り込まれた関係書籍6冊を、それぞれの内容と特徴を100字から200字で纏めた上で、該当する場所に配置している。
 正直に白状すると、宮崎さんがこの本で紹介している1,355冊のうち私が読んだのは両手で数えられるほどにしか過ぎない。買ったのはもう少し多い。が、もし私が将来これらの問題について考えよう、と思ったときには素晴らしい指南書になるだろうことは間違いない。