書評
書評から知らなかった本を知り、その後その本が愛読書の一冊となった経験は何度もある。また逆に「書評に騙された」「仲間褒め」と思ったこともある。事程左様に書評を書くことはとても難しい。その極致とも言える見事な書評に出会った。
図書館から借り出した丸谷才一の最後の文集「別れの挨拶」、これは彼の評論、エッセイ、文庫解説、書評などを集めたものであるが、をペラペラとめくっていて「ヒーローとその恋人」に目が止まった。2011年7月17日の毎日新聞に掲載された文章だそうだが、私が名前だけを知っている大沢在昌の「絆回廊 新宿鮫Ⅹ」が紹介されていた。
一読してこの書評の上手さに感心した。最初に主人公の紹介であるが、単に「東大法学部卒業、国家公務員試験上級職合格」と書くのではなく、「東大法学部の卒業生と聞くと、みんな何となく煙たがる。わたしにもその気持がすこしはわからぬでもない」と東京大学卒業生としての自らの経験をそっと書き、「親しくてしかも敬愛の念を抱いている知人が……何人かゐる身なのに」と続け「あ、もう一人、あれを忘れてゐた」と主人公に言及し、その輝かしい経歴について想像させる。
そして、そのような経歴を持ち、伝説的な功績を持つ主人公がなぜか昇進せず、警部に止まっていることを述べ、この主人公・新宿鮫を眠狂四郎や金田一耕助をしのぐスターと評価する。
その文章の褒め方は具体的でありつつ理論的である。「第一に作者の文体がいい。小説の文章として小粋である」と書き、6行ほどの例を挙げる。見事な例示である。
実例を挙げ、文体、文章を褒めた後、第二として「小説の作りが上手い」と述べる。その意味するところを、私が正確に理解したとは思わないが「半分以上過ぎた所で、ある重要人物に変転が生ずる。これが憐憫をもたらす」と説明し「愛とも友情ともどう名づけたらいいのかむづかしい情念をめぐる悲劇性を文章だけでやって見せる」とする。
第三として「構へが大きい」とし「東京を描くこの都市小説は、東南アジアの現在全体を扱ふ」「さらに、二十一世紀の市井風俗を題材とすると見せかけて実は日本近代史全体をとらへようとしてゐる」とその広大なスケールを語る。
このように絶賛した後に、この小説を楽しんだ読者の一人として、最後に主人公の恋人が主人公と別れることに抗議している。コナン・ドイルがシャーロック・ホームズを滝壺で死なせた事件以来の愚挙である、とまで書き、楽しんでいる。
この書評を読んで、直ぐにインターネットで市立図書館の在庫状況を確認したことは言うまでもない。
図書館から借り出した丸谷才一の最後の文集「別れの挨拶」、これは彼の評論、エッセイ、文庫解説、書評などを集めたものであるが、をペラペラとめくっていて「ヒーローとその恋人」に目が止まった。2011年7月17日の毎日新聞に掲載された文章だそうだが、私が名前だけを知っている大沢在昌の「絆回廊 新宿鮫Ⅹ」が紹介されていた。
一読してこの書評の上手さに感心した。最初に主人公の紹介であるが、単に「東大法学部卒業、国家公務員試験上級職合格」と書くのではなく、「東大法学部の卒業生と聞くと、みんな何となく煙たがる。わたしにもその気持がすこしはわからぬでもない」と東京大学卒業生としての自らの経験をそっと書き、「親しくてしかも敬愛の念を抱いている知人が……何人かゐる身なのに」と続け「あ、もう一人、あれを忘れてゐた」と主人公に言及し、その輝かしい経歴について想像させる。
そして、そのような経歴を持ち、伝説的な功績を持つ主人公がなぜか昇進せず、警部に止まっていることを述べ、この主人公・新宿鮫を眠狂四郎や金田一耕助をしのぐスターと評価する。
その文章の褒め方は具体的でありつつ理論的である。「第一に作者の文体がいい。小説の文章として小粋である」と書き、6行ほどの例を挙げる。見事な例示である。
実例を挙げ、文体、文章を褒めた後、第二として「小説の作りが上手い」と述べる。その意味するところを、私が正確に理解したとは思わないが「半分以上過ぎた所で、ある重要人物に変転が生ずる。これが憐憫をもたらす」と説明し「愛とも友情ともどう名づけたらいいのかむづかしい情念をめぐる悲劇性を文章だけでやって見せる」とする。
第三として「構へが大きい」とし「東京を描くこの都市小説は、東南アジアの現在全体を扱ふ」「さらに、二十一世紀の市井風俗を題材とすると見せかけて実は日本近代史全体をとらへようとしてゐる」とその広大なスケールを語る。
このように絶賛した後に、この小説を楽しんだ読者の一人として、最後に主人公の恋人が主人公と別れることに抗議している。コナン・ドイルがシャーロック・ホームズを滝壺で死なせた事件以来の愚挙である、とまで書き、楽しんでいる。
この書評を読んで、直ぐにインターネットで市立図書館の在庫状況を確認したことは言うまでもない。