KEI(2020年7月15日)

どなただっただろうか。エッセイの中で「本と〇〇は人に貸すべきではない」と書かれたのは。○○が何だったのかは覚えていない。
また、真偽は知らないが、アラブの諺に「本を貸す馬鹿、それを返すもっと馬鹿(He who lends a book is an idiot. He who returns the book is more of an idiot.)」というのがあるという。いずれにしても本の貸借はあまり望ましいことではなさそうだ。
私も他人に本を貸すことはあまり好きではない。頼まれれば喜んで貸すが、そのときは返してもらうことは期待していない。差し上げたつもりになっている。
このような私であるが、書庫の特等席に置かれているのは45年近く借りっぱなしの本である。勝本正晃著「民法に於ける事情変更の原則」(大正15年9月15日発行、定価8円50銭)がそれである。
この本を見るたびに、私が社会人になってから中堅と言われるようになった頃までの間、折に触れていろいろと指導して下さった老齢の顧問弁護士のお顔とその教えを思い出す。
「会社の仕事ではいろいろなケースにぶつかり、そのつど専門書を読み、専門誌の論文・判例を調べ、深く検討するでしょう。そして何等かの結論を出すでしょう。その調べたことを中途半端な形で止めて置かずに、きっちりと纏めて、徹底して自分のものにしなさい。これを積み重ねなさい」
仕事の話が一段落した後に、ウィスキーがたっぷりと入った紅茶を戴きながら賜った教えである。そのときに今まで議論してきた問題の論点の一つについて書かれているということで貸して貰ったのがこの本である。 教えに従って何等かの形で纏めようと思いながらも、次々に生じる新しい仕事に追われそのままになっている間に、老弁護士はお亡くなりになり、小雨降る鎌倉でのお通夜に出席することになった。遺影を眺めたとき「あれだけ言っておいたのに、仕方のない人だ」と言われているように感じ、教えに従うことを忘れないようにと返却をすることなく特等席に置いたのだ。 特等席ではないが、処分することなく書庫に保管してある今は亡き先輩や友人から借りた本もある。いずれも「面白いから読んでみたら」「返さなくてもいいよ」という言葉とともに借りたものであるが、貸してくれた本人が亡くなった現在では、何となく処分する気になれない。
以上は、書庫に何冊かある「返さなかった本」の話である。
また、真偽は知らないが、アラブの諺に「本を貸す馬鹿、それを返すもっと馬鹿(He who lends a book is an idiot. He who returns the book is more of an idiot.)」というのがあるという。いずれにしても本の貸借はあまり望ましいことではなさそうだ。
私も他人に本を貸すことはあまり好きではない。頼まれれば喜んで貸すが、そのときは返してもらうことは期待していない。差し上げたつもりになっている。
このような私であるが、書庫の特等席に置かれているのは45年近く借りっぱなしの本である。勝本正晃著「民法に於ける事情変更の原則」(大正15年9月15日発行、定価8円50銭)がそれである。
この本を見るたびに、私が社会人になってから中堅と言われるようになった頃までの間、折に触れていろいろと指導して下さった老齢の顧問弁護士のお顔とその教えを思い出す。
「会社の仕事ではいろいろなケースにぶつかり、そのつど専門書を読み、専門誌の論文・判例を調べ、深く検討するでしょう。そして何等かの結論を出すでしょう。その調べたことを中途半端な形で止めて置かずに、きっちりと纏めて、徹底して自分のものにしなさい。これを積み重ねなさい」
仕事の話が一段落した後に、ウィスキーがたっぷりと入った紅茶を戴きながら賜った教えである。そのときに今まで議論してきた問題の論点の一つについて書かれているということで貸して貰ったのがこの本である。 教えに従って何等かの形で纏めようと思いながらも、次々に生じる新しい仕事に追われそのままになっている間に、老弁護士はお亡くなりになり、小雨降る鎌倉でのお通夜に出席することになった。遺影を眺めたとき「あれだけ言っておいたのに、仕方のない人だ」と言われているように感じ、教えに従うことを忘れないようにと返却をすることなく特等席に置いたのだ。 特等席ではないが、処分することなく書庫に保管してある今は亡き先輩や友人から借りた本もある。いずれも「面白いから読んでみたら」「返さなくてもいいよ」という言葉とともに借りたものであるが、貸してくれた本人が亡くなった現在では、何となく処分する気になれない。
以上は、書庫に何冊かある「返さなかった本」の話である。
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