ラジオ深夜便と二つの塔の物語

ラジオ深夜便と二つの塔の物語

KEI(2019年11月13日)

 NHKのラジオ番組に、午後11時5分から翌朝の5時まで放送される「ラジオ深夜便」というのがある。1990年に放送を開始したそうだが、記憶を辿ると、開始からそう遠くない時期から知っていたようだ。単身赴任中のホテル住まいや寮生活で真夜中に目が覚めたときにダイヤルを回し、偶然に知ったのだろう。
 当時を思い起こすと、ベテランのアナウンサーのゆっくりとした、落ち着いたナレーションと3時台に放送される、いろんな切り口からのテーマに沿った「懐かしのメロディー」、その後の4時過ぎから45分ほどの番組「心の時代」(当時)が気に入っていたようだ。
 最近では歳のせいか、真夜中に目を覚ますことも多く、毎日と言っていいほど、枕元に置かれたラジオでイヤフォンを使い聞いている。
「心の時代」は「明日へのことば」とタイトルが変わったが、未だに好ましく思っている番組である。もっとも、聞きながらいつの間にか再度の眠りについているようで、目が覚めた時点では早朝の番組に変わっている、ということも多く、内容について正確に記憶しているとは言い難い。
 89歳で小説「見残しの塔―周防国五重塔縁起」を発表した久木綾子さんのことを知ったのは「明日へのことば」でだった。何気なく聴いていたが、彼女は「頭の中で五重塔を建てられるようになるまで、14年かけて多くの本や資料を読み、専門家に徹底取材した」旨を発言していた。その後、執筆に4年をかけて完成されたそうだ。このことを知り、すぐに市立図書館に行き借り出し読んだ。その後、同じ著者に「禊の塔―羽黒山五重塔仄聞」があることも知った。
 二つの作品を読みつつ、歳を取ってからのその気概と努力に驚きと同時に感心したことであった。同時に、著者はどのような経歴の人物なのかかなり気になった。70歳になってから急に小説の執筆を思い立たれた筈はない、若い時には何をされていたのだろうか、を知りたくなった。新聞報道では配偶者と死別するまで40年間専業主婦だったということと比較的若い時期に同人誌のメンバーだったことが書かれていた。
 この番組では、久木さん以外にも、年齢を重ねてからもすばらしい業績を挙げられている人物や、永年地道な努力を重ねられ大いなる成果を発表されている有名、無名の人物が、折に触れて紹介されている。このような人物の存在を知り、自らを鼓舞するだけでも、深夜の番組の存在価値はある。
 これらに加えて、若かりし頃を思い出す縁としての音楽番組の存在もありがたい。放送される音楽を聴いた後の、私の顔つきや心はきっと穏やかなものになっているのだろう。