待合わせ場所はいつも本屋さん

待合わせ場所はいつも本屋さん

KEI(2018年8月22日)

 最近の若者は友人との待合わせ場所をどのように選んでいるのだろうか。スマートフォンを駆使している彼ら彼女らは、時間に遅れそうになったり、場所が分からなくなったりしたら直ぐに電話をかけ、あるいはラインで連絡を取り合うに違いない。画面に地図を呼び出しその案内に従うかもしれない。これらの結果として待ち合わせ場所についてはあまり気を遣っていないのかも知れない。
 若かった頃の私は、待ち合わせ場所としては、シティホテルのロビー以外では、比較的大きな書店の特定の書籍売り場を選ぶのが普通だった。それは旅行案内書の売り場だったり、文庫本の棚が並んでいる場所だったり、あまり人がいない専門書コーナーだったりした。店主の眼鏡にかなった書物だけを取り扱っているペンシルビルの2階の小さな本屋さんを選んだこともあった。
 このような所なら、待たされたり待たせたりしても、立ち読みで時間を潰すこともでき、お互いに問題がないと思っていたからだ。
 ただ、最近の大型書店は売り場面積が極端に広くなり、大阪・梅田の紀伊国屋書店などはよほど丁寧に待ち合わせ場所を決めておかないと、混雑していることと相俟ってお互いに相手を探し出せなくなる。
 先日の上京時のこと。一献酌み交わすための待合わせ場所として先輩から指定されたのは東京駅丸の内側の丸善ジュンク堂の入口付近の場所だった。最近ではどのような本が平積みされているのか見てみよう、と早めに行ったが先輩は既に到着されており、この目論見は水泡に帰した。「早いですね」という私に笑いつつ「最近の人気本を眺めようと思ってね」と私と同じような考えを口にされた。
 待合わせ場所としての書店のメリットの第一は以上のとおりだが、書店を待ち合わせ場所にし、本棚を目的もなく眺める利点は他にもある。メリットの第二は、しっかりとした書物が並んでいる本屋さんの書棚は、ある意味では図書館の書棚と同じように、あるいは、新刊書が並んでいるが故に図書館の書棚以上に、脳に知的な刺激を与えてくれるのだ。
 待合わせの場所で、ただ単に「(いろんな意味で)面白い本はないかな」程度の漠然とした目的で、書棚の端から端までを眺めていると、突然、ある本の背表紙の文字が目に飛び込んでくる。このような経験は何度もした。
 それは、その時点で私が強く関心を抱いている問題点に関係する本ではなく、脳の片隅に長い間取り残された疑問に関係しているような本であったり、何年か前に酒席で友人が話題にした書籍であったり、かつて読んだ本の中で推奨されていた書物であったりする。言い換えれば、積極的に探し出そうとは思わないが、いろんな意味でちょっと気になる本である。
 図書館の書棚も同じようであるが、私の感じではちょっと違う。これは書物の並び方であったり、新刊の香りや佇まいであったりが理由ではないか、と思っている。
 老齢に達した現在では、繁華街で友人と待ち合わせをするようなことも少なくなったが、書店で待合わせをすることのメリットは大きい、と今でも思っている。