「図書館のお夜食」

「図書館のお夜食」

麻(2024年11月6日)

 図書館から「予約した本が受け取れます。云々」というメールが届きました。そこに書かれていた本は、原田ひ香著「図書館のお夜食」(ポプラ社)でした。このメールを見た私の最初の反応は、原田ひ香? 図書館のお夜食?というものでした。タイトルにも著者名にも全く記憶がありません。しかし図書館からこのようなメールが来るということは私が予約したに違いありません。
 そこで記憶を辿ることとなりました。私の机の上には具体的に内容が丁寧に書かれているメモ、判読に苦労するメモ、単語一字だけ書かれたメモなど用紙自体やその形も種々雑多な書き物というか何かが書かれている紙切れがクリップで留めて置かれています。その中に約 11 ヶ月前の日付でこの本を予約したということが乱雑な字で書かれたものがありました。

 予約したことは分かりましたが、どこでこの本を知ったのか、また予約した理由は何かもはっきりとは思い出せません。現時点では、多分ですが、タイトルに“図書館”という言葉があったから予約したのだと思っています。原田ひ香と言う著者名は新聞の書物広告欄で見たことはありますが、その程度で終わっています。手元の本を処分しつつある現在、自分で買うほどの本でもないが、タイトルに“図書館”という言葉が入っているから図書館にあればちょっと読んでみようか、というような軽い気持ちで予約手続きを取ったのでしょう。

 この本に書かれている図書館は普通の図書館ではありません。亡くなった作家の蔵書だけを集めきっちりと記録を作成した上、保存、展示している図書館で、開館時間は夜7時から夜中の 12 時まで、館員の勤務時間は1時間の休憩を挟み午後4時から深夜の1時までです。所在地は東京の郊外としか書かれていません。幾つかのヒントらしきものが書かれていますが、関西人の私にはその土地を推定することはできません。

 新しくこの図書館に勤務することとなった元書店員の若い女性館員の目を通して話が展開します。スポンサーというのか篤志家と言うのが正しいのか、経営主体は図書館員の誰もが知らないことになっています。というか責任者の青年を除き誰も知りません。

 タイトルの一部にある「お夜食」はまかないとして出される夜食のことで、かつて銀座の有名コーヒー店でコーヒーを煎れていた人物が、例えば井上靖の「しろばんば」に載っているおぬい婆さんが作るライスカレーを再現したものであったり、向田邦子の「ままや」の人参ご飯だったり、田辺聖子の鰯を炊いたんとおからのたいたん等を作ります。

 著者は図書館員それぞれのちょっとした秘密やこの図書館を巡る小さな事件を交えながら物語を楽しく進めています。
 小説自体も読んで楽しいものでしたが、図書館関係の話題で言うと、図書館司書の資格を有し、東京都内の中心的な役割を担う公立図書館で働き、最後はレファレンス係の主任となった現在では60歳を超えている館員による当時のレファレンス業務についての述懐、コンピューター導入以前のレファレンスの状況の話は興味を引くものでした。

 著者は、最後にこの図書館を作った人物の発言として「ねえ、過去より今の方が進化しているなんて、あまりに思い上がりよ。工業や科学、化学(ばけがくとルビが振ってあります)なんならともかく、美術芸術文学の上で、進化し続けているものなんてない」「だから、私は過去を封じ込めようと思う」と書いています。
 美術芸術文学が進化する、あるいは進化しない、というのは私にはよくは理解できない言葉で、これらは時代の変化により変わって行くと考えるべきだと思うのですが、ただ、この話がなされたのがアカデミア美術館のあの有名なダビデ像の前であり、そこでの「たぶん、これと同じものは、今は作れない。模写という意味ではなくてね」というのは進化という言葉を離れて理解できるように思いました。

 気力と根気の衰えもあり、最近はどのような本であっても一気に読み終えるということが無くなりましたが、この本は久し振りに1日で読み終わりました。