邸宅美術館
美術品の一大コレクションを築いた大富豪の蒐集品を展示するために建てられた美術館はよくある。例えば実業家のアントン・クレラー・ミュラーとその夫人ヘレンにより蒐集された数多くのゴッホの作品を含む1万点余の美術品を有するクレラー・ミュラー美術館、日本では倉敷の実業家大原孫三郎により蒐集された西洋美術、近代美術を展示する大原美術館、株式会社ブリヂストンの創業者である石橋正二郎の蒐集による西洋美術、日本近代絵画のアーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)等々。
これらの美術館以外に欧米には個人の邸宅を美術館として公開した「邸宅美術館」が数多く存在する。欧米の 15 の邸宅美術館を数多くの写真と共に紹介する朽木ゆり子さんの「邸宅美術館の誘惑」(集英社)を図書館から借り出した。この本には「アートコレクターの息づかいを感じる至福の空間」との副題がついている。
選ばれているのはアメリカ5邸、イタリア3邸、ベルギー3邸、フランス2邸、スイス2邸の邸宅美術館である。著者は「特徴のあるコレクション、物語のあるコレクター、美しいセッティング」の3点からこの15の美術館を選んだという。
この15の邸宅美術館の建物とその由来、主(あるじ)の絵画の蒐集に関する意見や考え方、見方の諸々はとても興味深く読んだ。例えばボストンにあるイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館は、ガードナー夫人の「私が死んだ後で、何も変えないように」との遺言を遵守している。
それぞれの人物がその巨万の富を美術品蒐集に当て、それをそれぞれの方法で後世に伝え、現在の我われがそれを楽しんでいるということに、改めてこれら蒐集家の想いを感じ、後世の我われは彼らに感謝すべきだろうと思う。
掲載されている15の邸宅美術館の内、私が訪れたのはたった1ヶ所、ニューヨークにあるフリック・コレクションだけである。
40 年ほど前、米国企業買収案件交渉中の日曜日を利用して一人で訪れたのが、フリック・コレクションだった。大都会ニューヨークの喧騒とは別世界の大邸宅の空間を楽しんだことと、のんびりと展示絵画を見て交渉の疲れが癒されたことだけを覚えている。そして、それぞれの絵画とそれを見る私との距離が非常に近かったことも。
ここはフェルメールを3点保有しているが、当時はまだフェルメールに関心を抱いていなかったのでそれらを見たというはっきりとした記憶はない。ただ、この本に掲載されていた如何にも由緒ありそうな椅子の後ろの壁に掛かっているフェルメールの「兵士と笑う女」の写真を見て、少し記憶が蘇った。その時「椅子の後ろに絵画が掛けられているのは、絵画とそれを見る人の距離を、ロープではなく椅子により自然に取るためだろう」と考えたことも思い出した。
日本にも個人の邸宅を美術館とした例はある。東京都港区白金台にある東京都庭園美術館がそれで、ここは旧朝香宮邸である。東京単身赴任中に何度か訪れ、建物と同時にそこで開催されている美術展を楽しんだ。また、阪急電鉄の創業者小林一三の邸宅(雅俗山荘)は小林の没後、小林が蒐集した美術品を展示する逸翁美術館として開館した。美術館は現在では別の場所に移転し、雅俗山荘は小林一三記念館となっている。
これらの美術館以外に欧米には個人の邸宅を美術館として公開した「邸宅美術館」が数多く存在する。欧米の 15 の邸宅美術館を数多くの写真と共に紹介する朽木ゆり子さんの「邸宅美術館の誘惑」(集英社)を図書館から借り出した。この本には「アートコレクターの息づかいを感じる至福の空間」との副題がついている。
選ばれているのはアメリカ5邸、イタリア3邸、ベルギー3邸、フランス2邸、スイス2邸の邸宅美術館である。著者は「特徴のあるコレクション、物語のあるコレクター、美しいセッティング」の3点からこの15の美術館を選んだという。
この15の邸宅美術館の建物とその由来、主(あるじ)の絵画の蒐集に関する意見や考え方、見方の諸々はとても興味深く読んだ。例えばボストンにあるイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館は、ガードナー夫人の「私が死んだ後で、何も変えないように」との遺言を遵守している。
それぞれの人物がその巨万の富を美術品蒐集に当て、それをそれぞれの方法で後世に伝え、現在の我われがそれを楽しんでいるということに、改めてこれら蒐集家の想いを感じ、後世の我われは彼らに感謝すべきだろうと思う。
掲載されている15の邸宅美術館の内、私が訪れたのはたった1ヶ所、ニューヨークにあるフリック・コレクションだけである。
40 年ほど前、米国企業買収案件交渉中の日曜日を利用して一人で訪れたのが、フリック・コレクションだった。大都会ニューヨークの喧騒とは別世界の大邸宅の空間を楽しんだことと、のんびりと展示絵画を見て交渉の疲れが癒されたことだけを覚えている。そして、それぞれの絵画とそれを見る私との距離が非常に近かったことも。
ここはフェルメールを3点保有しているが、当時はまだフェルメールに関心を抱いていなかったのでそれらを見たというはっきりとした記憶はない。ただ、この本に掲載されていた如何にも由緒ありそうな椅子の後ろの壁に掛かっているフェルメールの「兵士と笑う女」の写真を見て、少し記憶が蘇った。その時「椅子の後ろに絵画が掛けられているのは、絵画とそれを見る人の距離を、ロープではなく椅子により自然に取るためだろう」と考えたことも思い出した。
日本にも個人の邸宅を美術館とした例はある。東京都港区白金台にある東京都庭園美術館がそれで、ここは旧朝香宮邸である。東京単身赴任中に何度か訪れ、建物と同時にそこで開催されている美術展を楽しんだ。また、阪急電鉄の創業者小林一三の邸宅(雅俗山荘)は小林の没後、小林が蒐集した美術品を展示する逸翁美術館として開館した。美術館は現在では別の場所に移転し、雅俗山荘は小林一三記念館となっている。