もうすぐたべられるぼく

もうすぐたべられるぼく

けふばあちゃん(2024年1月14日)

 去年の3月のある日。東京在住の友人が「本屋絵本賞をとった本なんだけど、文庫にどうかしら?」と絵本を贈ってくださった。パステルカラーのかわいい絵本。「ワーッ、ありがとう!!」
読んでいるうちに、気持ちがざわざわしてきて、(う~ん、なんだかストンとこないなぁ。なんかなぁ?)と、引っかかってしまう。
『もうすぐたべられるぼく』 はせがわゆうじ作 中央公論新社
 帯には、「TikTokで300万回再生された泣ける話」「この絵本に出逢った時の感動を今でも覚えています!!」「自分の一番大切な人に読んでもらいたくなる一冊です。」山口もえさん推薦!「たくさんの命をもらっている以上、大事に生きなきゃ」「感謝は、一番大切だとおもった」「まじでいい話すぎる」・・・・・・など反響続々。
 次の日、ちょうど毎月集まっている読書会があったので読んでみた。
「どう思う?」
「う~ん、なんか気持ちを強制されているような気がする」
「なんかなぁ、言わずもがなってことを安易な言葉で流している」
「絵がかわいいだけに、ちいさな子が手に取りやすいことも問題かなぁ」
「TikTokで300万回再生されて、それでそのまま本になるというのもなぁ?」
 集まったメンバーは、毎月児童書を読んで、いろいろ話し合っている仲間。結構手厳しい感想が次々述べられる。う~ん、実はなんか引っかかるのだけれど、うまくことばにならなかった。そうだよね。私の引っかかったのは、「気持ちを強制される」「どうだ!お前たちもこの命をもらってるんだぞ、大事にしろよ!」という“上から目線”
 また、文庫のOGがやってきた時(50代の母親)「わ~たまらん。あかんわぁ、もう、涙出てきたぁ!!」
 その娘(20代前半)
「おかあさんは、すぐ同調するからなぁ。もう、この子のお母さんの気持ちになってるやろ。」
「でも、これって絵本やろ。子どもに渡す本ちゃうん?私が小さい子どもやったら、もう、お肉食べられへんわ」
 その後、また毎月集まる文庫の仲間にも読んでみた。
 ほぼ、読書会の仲間の感想と一緒で、その日、ちょっと若いメンバーも参加していて、彼女は、「そもそも、これ乳牛、ホルスタイン違うの?乳牛はミルクをとる牛やし、肉牛とは違うから、オスが生まれた瞬間に処分されちゃうんじゃない?お肉として出回るかなぁ?」
その後、本の話から、流通の話に発展し、経済と子ども、どんどん話題は広がっていった。
 さてその後、迷ったけれど、本を贈ってくれた友人に正直に文庫おばさんたちの感想を届けた。
 その返事。「すごく参考になった。みなさん賛否両論、正直に話し合える場所があっていいですね。でも、私もネットで調べてみたんだけど、乳牛も国産牛として出ているみたいよ。調べてみて!」というわけで、県立図書館に行ってきた。
「乳牛に関する資料を見せていただけますか?」
「乳牛のどういう資料をお探しですか?」
「じつは、この絵本が元なのですが、読書会で話すうちにいろんな疑問が出てきて・・・・」
「分かりました。探してみますね」
 持ってきてくださった資料には、しおりが挟まれ、机の上に山になっていく。『ウシの科学』広岡博之 朝倉書店、『日本の肉用牛繁殖経営』-国土周辺部における成長メカニズムー大呂興平、『乳牛飼養と生乳生産』 小林茂樹、『肉用牛の科学』肉用牛研究会、『日本食品用準成分表』、『アニマルウェルフェアとは何か』―倫理的消費と食の安全―枝廣淳子、などなど。

≪わかったこと≫
  • もともと日本では肉食の風習がなかった。牛は主に使役牛として飼育されていたのだが、農業の機械化・食生活の欧米化が進むにしたがって、使役牛が肉牛として生産されるようになる。
  • 畜産物の自由化により、安い輸入肉が入るようになり、日本の肉牛はブランド化、高級肉牛化の方向に。
  • 日本の畜産農家に厳しい現状。劣悪な環境での飼育で家畜にストレスのための病気もある。そのため、抗生物質が多量に投与されたり、死亡することもある。
  • 家畜の飼育環境、衛生環境なども考慮し、消費者も経済だけでなく、食の安全、家畜の安全にも考慮すべきであるというようなアニマルウェルフェアという考え方もある。
 などなど、一冊の絵本からずいぶんたくさんのことを学ばせていただいた。