吹雪の夜の侍

吹雪の夜の侍

KEI(2022年1月5日)

 与謝蕪村の句に「宿かせと刀投げ出す雪吹(ふぶき)哉」がある。その場の情景が目に浮かぶような句である。(ちょっと調べたところでは、古くは「雪吹」が一般的で、現在のような「吹雪」が見られるのは近世になってからだとか)
 この句を知ったのは60歳を過ぎてからであった。60歳を超えた私がこの句を知ったときに瞬間的に思い出した西条八十の詩があった。小学校高学年の頃に読んだ「少年詩集」(大日本雄弁会講談社)に載せられていた「その夜の侍」である。
 この詩は次のようなものであり、今でもそれほどの誤りなく暗唱することができる。
  宿借せと 縁に刀を投げ出した 吹雪(ふぶき)の夜のお侍。
  眉間(みけん)にすごい 太刀傷の 血さえ乾かぬお侍。
  口数きかず 大鼾(おほいびき) 暁(あさ)まで睡(ねむ)つて行きました。
  鳥羽(とば)の戦の 済んだころ 伏見街道(ふしみかいだう)の一軒家。
  その夜炉辺(ろばた)で あそんでた 子供はぼくのお祖父(じい)さん。
  吹雪する夜は しみじみと 想(おも)ひだしては話します。
  「うまく逃げたか、斬(き)られたか。」 縁に刀を投げ出した その夜の若いお侍。
 先人は与謝蕪村のこの句「宿かせと刀投げ出す雪吹(ふぶき)哉」をどのように解釈しているのか、気になった。新型コロナウイルス蔓延の中、図書館へ行くのも憚られるので、蕪村の句をキーワードにインターネット検索をすることとした。
 2018年4月から9月までの予定で京都新聞に連載されていた「黛まどか『蕪村を読み解く』」がヒットした。<動かぬ言葉を厳選 緊迫の一瞬を切り取る>との見出しのもとに、この句が取り上げられていた。
 そこでは黛さんは「『宿かせと・・・』は、侍が吹雪の中を行き暮れて一軒の民家に転がり込み、刀を上がり框(がまち)に投げ出して『これで一晩泊まらせてくれ』と迫っている場面だ。切羽詰まった侍の様子と共に、吹雪の凄まじさもリアルに伝わる」、「・・・まるで芝居の一場面を観ているかのように前後の物語が浮かぶ」と解釈、説明している。
 黛さんはこのように言うが、私は侍が「刀を投げ出した」のは単に「害意はない」ことを示した行動だと思っている。「害意はないので一晩だけ眠らせてくれ」と言ったのだと思う。宿賃の代わりに刀を差し出した、とは解釈のし過ぎではないだろうか。
 そして、西条八十は多分、蕪村のこの句を基礎に「その夜の侍」を作ったのだろう。