京の古道

京の古道

KEI(2019年10月2日)

 京には幾つかの古道がある。いつとは知らず、大原街道、小関越、奈良街道、竹田街道、伏見街道、西国街道、周山街道などの名を覚えた。どこから始まりどこで終わる、といったことは全く知らない。それぞれの街道の名前に幾つかの書物や人物あるいは種々雑多なエピソードが結びついているだけである。
 退職を機に、これらを実際に歩いてみようと思った。きっかけは同僚から彼の恩師である増田潔氏の著書「京の古道を歩く」(光村推古書院)を見せられたことである。
 この書物は、京都の高校で社会科教諭として教鞭を取られ、幾つかの高校の校長を歴任された著者が「かつての都人や旅人が歩き、また馬に乗ったり、牛車に揺られて通ったその道」(402頁)を実際に歩き、史実に即して調べられた労作である。艮(うしとら・北東)にある鞍馬街道から、巽(たつみ・南東)、坤(ひつじさる・南西)を経て、乾(いぬい・北西)の加茂街道・雲ケ畑道まで31の古道が、関連する数多くの文献、種々のエピソードとともにかなり詳細な地図を付けて掲載されている。
 私の歩きの提案に賛同して先達や日程の調整を始めとする諸々のアレンジ役を務めてくれたのは全て会社の同僚だった。ほんの少しの年長者という特権(?)に甘えて、また知識不足を理由にすべてをこの信頼できる仲間にお願いし「負んぶに抱っこ」の立場で歩いたのだった。
 歩きながらのこれら仲間との会話が実に楽しい。史跡や寺社仏閣に直接間接に関係する話もあれば、聞こえてくる鳴き声から鳥の名前を教わったり、田圃に生える稗の害について授業を受けたり、遠くに見える工場の建物からそこで造られている製品の諸々など、話題の範囲は極めて広い。
 奈良街道筋で野菜の自動販売機を見つけそのアイデアに感心したり、山陰街道で「この先にスズメバチが巣を作っている可能性がありますので、ご注意下さい」と書かれた京都府農林水産部モデルフォレスト推進課と京都府立大学生命環境学部付属演習林本部連名の注意書を見て、驚いて引き返したこともあった。
 現在、私の「京の古道を歩く」は10冊ほどに分解され、ステープラーで止められている。この分解された小冊子を手に、増田氏が歩かれた道を辿ったという次第である。また、増田先生に倣った訳ではないが、記録という意味で、歩きながら見たことや考えたことを書き留めたメモや撮影した写真は、かなりの量になっている。
 主だった京の古道を歩いてしまった現在では、京に数多くある七福神巡りや奈良の古道歩きとその後の一献に連なる清談、閑談、歓談、雑談を楽しんでいる。