変幻自在の本棚

変幻自在の本棚

KEI(2018年2月7日)

 棚の中味、というかそこに置かれている本、が毎日あるいは数時間毎に変わる「変幻自在の本棚」のお話である。
 図書館に「本日返却された本」を並べておく棚があるのは知っていた。受付の近くの隅に位置し、その前にはカートが置かれている。この棚にはその日に返却された書物が大雑把な分類をした上で並べられている。ときどき図書館員がそこに置かれた書物をカートに乗せ、正規の場所へ納めている。
 ここに置かれている本も申し出れば借り出すことができるだろうとは思っていたが、特に注意して眺めることもなかった。
 ところが、最近私がよく顔を出す駅前にある図書館分館では、いつの頃からか、この棚が入ってすぐの一番目に付くところ、いわば特等席に置かれるようになった。そしてこの棚には「本日返却された本」という表示とともに、「この書棚の本も借り出せます」という趣旨の張り紙が目に付くように貼られている。
 最近では、図書館に行くたびに、必ずこの「本日返却された本」の棚を見ることにしている。日本十進分類法できっちりと分類されている書棚とは異なり、大きく分類はされているが、いろんな種類の本が順不同に並べられている。
 興味本位から他人の本棚を眺めるような目で「このごろ図書館で本を借りる人はどのような本を読んでいるのだろう」「どのような種類の本に人気があるのだろう」と注目し始めたのだが、思いもかけない収穫があった。
 この棚で最初に発見したのは三浦しをんさんの「舟を編む」だった。辞書作りをテーマにした小説で出版当時には気になっていたのだが、雑用に取り紛れて忘れてしまっていた。
 女優の中谷美紀さんの「インド旅行記1」もこの棚で出会った。直前にテレビで見た映画「阪急電車~片道15分の奇跡~」の主人公を演じた人気女優が、書き下ろしで400字詰め原稿用紙538枚の作品を書いている、ということに少し驚き読んでみようと思った。彼女は2週間から1ヶ月間ほどのインド旅行を合計で4回しているようだが、この本はその第1回目の旅の記録である。
 平岩弓枝さんの「風よヴェトナム」と「ベトナムの桜」もこの本棚に置かれた小説の中から選んだのだった。「御宿かわせみ」シリーズは全巻所有しているが、この2作についてはその存在を知らなった。
 これらの本がもし日本十進分類法に従った通常の位置に置かれていたならば、たぶん目に付くこともなく、例え目に付いたとしても手に取ることはなかっただろう。
 選ばないだろう本との邂逅を演出してくれた「本日返却された本」棚に感謝している。
 しかし、分館の職員の皆さんはどういう意図でこの棚を一番目に付く位置に置くことにしたのだろう。この書棚を置く位置としては入口近くの場所しかなかった、自分たちにとって一番便利な位置だから、などという単純な理由だったら少しがっかりするが。