「食堂のおばちゃん」

「食堂のおばちゃん」

麻(2025年8月20日)

食堂のおばちゃん

 図書館から定期的に送られてくるメールマガジンの記事でこの本「食堂のおばちゃん」を知りました。ここで紹介されていなければ多分私はこの本を読むことはなかったでしょう。
「食堂のおばちゃん」(山口恵以子、角川春樹事務所)は姑の一子(いちこ)と嫁の二三(ふみ)が二人で切り盛りしている東京は佃島にある「はじめ食堂」が舞台です。昼は近くのオフィスに勤めている会社員相手の定食屋、夜は近所の人も訪れる居酒屋です。そこでの日常が暖かい目、優しい筆致で描かれています。そこには美味しい料理も並んでいます。

 ここには悪人は出て来ません、いや一人いました。第三話「オヤジの焼き鳥」に出てくる「小さな店のオーナーに改装話を持ちかけて、話が決まると相談料手付け金その他、ごっそり懐に入れて雲隠れする」詐欺師です。「はじめ食堂」の近くにある焼き鳥屋がそのターゲットになりました。焼き鳥屋の主人の息子であるイタリア料理のシェフが店を親の反対を押し切ってリストランテに改装したいと考えたのが発端です。
 どのような結末になるのか、ハラハラ、ドキドキしながら読み進めました。作者の力量を感じさせる見事な結末でした。最後の4頁で読者を安心させてくれました。

 このような食堂が近くにあったらいいな、偶には妻と一緒にお昼の日替わり定食を食べに行ったり、近くに住む従弟夫婦を誘ってお酒を楽しみながら夕食を食べたりするのもいいな、と思ったことです。
 この本を読みながら、私は池波正太郎さんの食べ物やお酒に関する幾つかの随筆や小説と共にそこに描かれた料理を思い出していました。その中にはレシピらしき内容が書かれている文章があったことを覚えています。
 この本でも物語の中の料理についてその材料や調理法が具体的に書かれていますが、巻末にはこの本の五つの話に現れる料理の内14のレシピが、おばちゃんのワンポイントアドバイスとともに丁寧に書かれていました。私より先に読み終えた妻は「レシピをコピーしておいてね」と私に言いましたが、その内に「はじめ食堂」のオムライス、鰯のカレー揚げ、春巻、春キャベツのペペロンチーノなどが我が家の食卓に上るかも知れません。