「はじまりの24時間書店」

「はじまりの24時間書店」

muca(2025年10月15日)

「はじまりの24時間書店」

 ガルヴァニック大学を卒業する頃になって、そこの図書館職員として迎え入れられた、エイジャックス・ペナンブラという若者を主人公とする話だった。
 この大学の図書館には翻訳不可能あるいは解釈不可能な唯一無二の本がどこのコレクションよりも多く所蔵されている。

 ペナンブラは下級図書入手職員に昇格し、学長から、現存しているかどうかも分からない『テクニ・タイキオン』という書物を探す指示を受けて旅に出る。
 私には、こういう仕事が魅力のあるものとは感じられない。律儀にこれを探し続けるペナンブラに同情を覚えるばかりである。たとえ本が好きだとしても、こういう仕事は本好きには無関係な労働に過ぎないとしか思えない。

 足跡が途絶えたこの本の探索を根気よく続けていくが、わずかな手がかりから、サンフランシスコのウイリアム・グレイという本屋にあったことが分る。サンフランシスコへ行き、いくつもの書店で尋ね歩くが、何の情報も得られない。
 今はもう存在しない書店に有った貴重な本というのだから、雲をつかむような探し物なのである。

 真夜中に、イタリア料理店と漢方薬局に挟まれた小さな書店に行き着いたところが本書の冒頭の場面。そこにいる客は、片端から勝手に本を選んで読みふけるだけで、まともに本を買いそうな者はほんの少しのような、24時間営業の書店である。

 店員のマーカスはペナンブラから、探している本の書名(テクニ・タイキオンはギリシャ語)を聞くと、「“運命の技術”って意味かな?」と言い、ペナンプラは「そのとおりです!」と感嘆する。読んでいる私にとって「本を探す」という話が現実味を帯びてくる。

 その本があった店は今は港の海底に沈んでいるという絶望的な状況であるが、24時間営業の書店主(通称「モー」)と店員、ペナンブラによる「タイキオン」を見つけ出す冒険が始まり、ついには手に入れることになる。
 大学の図書館で、学長に「テクニ・タイキオン」を届け、喜んだ学長は上級図書入手職員のポストを提示するが、彼は「サンフランシスコに戻ると決めたんです」と告げる。

 モーに、元雇い主にタイキオンを届けたことを話し、モーとマーカスから24時間営業の書店員として迎えられることになる。

 解読が困難な希少本を探す。それはそれで価値のあることだろう。しかしそれが達成できた時の喜びは、本好きからは何の関係もない技術やゲームのようなものに過ぎないかもしれない。
 いろいろな本に囲まれ、様々な動機で本を読む者たちと心を通わせながら、心ゆくまで本を読めることこそが楽しい。

 自分自身が読みたいわけでもない本を探すだけの安定した生活に別れを告げ、書店の一員となって本と客に囲まれる質素な生活を選んだ若者は、比べようもないほど充実した人生を送るだろうと思わせられる。

 余談になるが、「鏡の国のアリス」と硬貨の寄せ集めを持ってきた若い客に、モーが「いいから持っていけ。その金で髪を切りなさい」という場面がある。
「はじまりの24時間書店」には、「デューン 砂の惑星」という本の名も出てきた。私は若い頃にこの「1」を買ったことがあるが、途中まで読んだだけだった。そのことをたまに気にしたことがあったが、一昨日、1985年に出版されたものを選び、1と2を図書館に予約した(4まである)。