読めない画集

読めない画集

啓(2023年5月3日)

 美術展で買った数冊の図録の隣に同じ大きさの1冊の画集が並べられている。現役の頃ノルウェー・オスロ郊外 100 キロのモスという小さな町にあった、ある分野では世界第一の技術を有する会社との技術提携交渉が無事に終わり、オスロ市街に戻った後の散歩の時にふらっと立ち寄った書店で買ったことを覚えている。
 何か記念になる本を買おうという気持だったのだろう。「読めない文字ばかりの本を買っても意味がない、絵が入った本を買おう」と考え、平積みされていた表紙に水彩画の風景が描かれている本を手に取った。
 この本には水彩で描かれた素朴なカラー風景画10数点と数多くのモノクロームの風景画さらには同じくモノクロームの人物のデッサンと北欧の伝説に題材を取ったのだろうかおどろおどろしい絵などが収められていた。時々は手に取っていたが単に絵を眺めていただけである。
 モノクロームの絵にはかなり丁寧な説明文や解説文と思われる文章が添えられているが、もちろん私にはチンプンカンプンである。そもそも表紙に書かれた文字列を見てもどれが画家の名前かもわからない。
 このような状態でこの本は長年の間、書斎の書棚に鎮座していた。
 時間もあることだし、この本についてちょっと調べてみようと思った。
 最初に中央部に一番大きな字で印刷されている KARL ERIK HARR という言葉をインターネット検索機能を使い検索した。ウイキペディアを示すようなノルウェー語のタイトルがあったのでそこに記載された文章を翻訳機能を使って日本語に翻訳した。そこには「カール・エリック・ハー( Karl Erik Harr 1940 年5月8日~ )は、ノルウェーの画家、イラストレーター、グラフィックアーティスト、作家であり、ノルウェー北部の風景と沿岸の歴史の表現で最もよく知られています」とあった。画家の名前だった。
 次にインターネット検索画面に著者の名前と思われる AV IVAR B.M.ALVER を打ち込んだ。ノルウェー語のそれらしきタイトルが幾つかあったので、適当に選んだうえでこれも翻訳機能を使った。変な日本語訳だったが、日本語ではイヴァル・エルフと書くノルウェーのジャーナリストであることや、さらに彼が北ノルウェーの画家カール・エリック・ハーの伝記を書いていることも分かった。
 最後は表紙の上部に書かれている長い言葉 KUNSTNPORTRETTER である。ちょっと苦労をしたが「アーティストの肖像画」という意味らしいことが解った。後ろから数えて10文字は英語の PORTRAIT (ポートレート)に当たるノルウェー語かも知れない。
 最終頁には略歴が書かれ、自画像と思われるパレットを持つモノクロームの絵が2枚掲載されている。眼鏡をかけた顎鬚を生やした人物である。 1940 年生まれであるから未だご存命だろう。
 私のような IT リテラシーの低い人間でも、このようなことをそれほどの時間をかけずに調べることができる世になったことに少し驚いている。