増田明美さんの人生相談

増田明美さんの人生相談

KEI(2022年6月1日)

 増田明美さんについて書く。かつてマラソンや長距離走で一世を風靡した増田さん、現在はスポーツ・ジャーナリストの肩書を持ちマラソン解説でも活躍している増田さんについて書くのではない。読売新聞の人生案内の欄の回答者として、元アスリートとは違った面を我々に見せている増田さんについての所感である。
 新聞に人生相談の欄があること自体が私にはその意味や必要性を理解できないが、愛読し参考にしている読者もいらっしゃるだろうし、それなりの意味があると主張される識者もいらっしゃるだろうから、この欄の存在自体について議論するつもりはない。
 人生案内とタイトルをつけた読売新聞の人生相談欄で読む増田明美さんの回答がすばらしい。
 つい先日の相談者は80代の女性、その相談内容は35行の文章で「娘のこと後悔ばかり」と見出しが付けられ「娘のことで深く考えず決めたことが多く、後悔ばかりです」で始まっていた。書かれている内容は、娘の高校進学に際して親としてあさはかな判断をしたこと、娘から預かった書籍を娘の了解を得て処分したがなぜ残しておいてやらなかったかということの2つを例示し、後悔ばかりしていると書いている。
 このような相談に対しては、返事のしようもないと思われるが、増田さんは丁寧に相談者に寄り添った考え方を述べている。42行の増田さんの回答はとても心優しく、すばらしい。
 今まで読んだ増田さんの回答と同じように、まず最初に「まっすぐに引いた線に沿って、美しい文字で書かれた相談のお手紙。あなたの真面目な性格が伝わってきます」と相手をそのまま受け入れるやさしい文章が書かれている。
「娘さんはそれほど気にしていないと思いますよ」と端的に自分の考えを書いた上で、「私は、あなたの娘さんと同じくらいの年齢だと思います」と、これから同年代の女性がどのように考えているかを書きますよ、と理論で納得させるのではなく、気持ちで納得してもらえるような前提を示す。
 そして、相談者が気にして書いている2つの事例のうち、前者の悩みについては娘さんの気持ちを想像し、「10代の頃の葛藤は困難を乗り越えていく力になったはず」「中年になると、母親には『産んで育ててくれてありがとう』の気持ちでいっぱいになります」と書き「娘さんにしてあげられなかったことを数えるよりも、してあげて喜ばれたことを数えていってください」と、自らを否定するのではなく肯定する気持ちで生き、考えるようにと励ましている。
 後者の悩みについては「本のことも、大切な本は自分の手元に置いてありますから、大丈夫」と見事な一閃。
 これを読んだ80代の母親の今まで心の中にあったもやもや、折に触れて思い出した後悔の念は、雲散霧消とまではいかないかも知れないが、心の中で整理されたことだろう。
 増田さんは回答を「それよりも、娘さんのためにも、いつまでもお元気で幸せにお暮しくだいね」で締める。見事な人生案内である。
 これを書き終わった後に、増田さんには「認めて励ます人生案内」(日本評論社)という著作があるのを知った。読売新聞掲載の人生案内を纏めたもののようだ。