SFに夢中だった、あの頃

SFに夢中だった、あの頃

muca(2025年9月3日)

図書室の魔法上下巻

 図書館をうろうろしていて、書名に …図書室… の文字があるのをつい手に取ってしまったらしい。なぜこの「図書室の魔法(原題:Among Others)」を借りたのかを思い出せないのである。
 著者はジョー・ウォルトン(Jo Walton)という女性の名で、読んでいくとなるほど確かに女性が書いたものらしい。けれど訳者が茂木健という男性なのが少し不思議に思う。内容はいかにも少女が少女らしい書き方で綴られた、現在進行形の日記なのだ。私は本を読む前に謝辞や解説は読まないので、書かれていることが何処に向かうのかが、かなり読んでいかないと推測できないことが多い。つまり、成り行きにまかせる読書スタイルなのである。

 少し読んでいくと、かなり特異で危険な体験をしてきた少女が、これから先も何が起こるか予想できない不安を抱えている状況を、淡々と日記に書いていくのだなというのが分かる。
 ある面、いかにも少女の読むような内容にも思えるのだが(少女期独特と思えるような言葉が多い)、著者の簡潔な文章に惹きこまれてしまう。
 普通の者には見えないフェアリーという(特に可愛くもない)妖精みたいな者たちとの、それほど親しげでもない関わり方などがクールに描かれていて文章のリズムも私には心地よい。
 主人公の少女のすさまじいほどの旺盛な読書欲は、著者自身の膨大な読書量をそのまま反映しているとしか思えず、驚くばかりである。

 文庫本には表紙の裏に端を少しくっつけた紙が1枚あるが(文庫本サイズの小説によくある、この部分のいい方が私には分らない)、この本にもそこに要約に近いことが書かれている。そこに「ヒューゴー賞、ネビュラ賞、英国幻想文学大賞を受賞した物語…」とあるのは最初に目を通してはいたのだが、迂闊にも、かなり読んでいくまでSF小説とは気づかなかった。妖精を見ることができる能力のある少女という設定がされているのを、不思議とも思わず読んでいたのである。

 読みはじめたときに予想されたスリルは結局それほどでもないまま終わったが、SF小説を次から次へと読んでいた頃を思い出させてくれた。私の少年時代は、早川書房のミステリマガジンも購読していたが、SFマガジンにも夢中になっていたのである。

 著者が作中で言及している作家の作品は140冊に近いという膨大な数である。その中で私も知っている作品は「重力への挑戦」だけというのには苦笑してしまう。けれども、その著者であるハル・クレメントの他の作品「20億の針」と「テネブラ救援隊」も懐かしく思い出させてくれたのも「図書室の魔法」のひとつなのかもしれない。