儀礼の急所

儀礼の急所

KEI(2022年8月24日)

 阿川弘之さんの随筆集を読んでいたら、谷沢永一さんの「冠婚葬祭心得」(新潮選書)の紹介文が掲載されているのに気が付いた。私の頭の中ではこのお二人の接点は全く存在しなかったので、どのような理由、経緯で阿川さんがお書きになったのかは知らないし推測もできない。
 阿川さんは「論語に虚礼廃止を唱へる弟子を戒めた孔子の言葉が、『賜(シ)ヤ、爾(ナンジ)ハ其(ソ)ノ羊ヲ愛(オシ)ム、我ハ其ノ礼ヲ愛ム』と出てゐるが、谷沢さんの新著は、これを思ひ出させる智慧の書だと感じた」と「冠婚葬祭心得」を紹介している。(私は論語のこの言葉を知らなかったが「賜よ、お前は生け贄の羊一頭が惜しいようだが、私はそれを止めることによって『礼』が失われることが惜しいのだ」というほどの意味だろうか)
 この本は書名は極めて俗っぽいが、約50年前に大ベストセラーになった世俗の儀礼の守りかたについて述べている指南書のようなものではなく、その作法の根本にある人間の気持に焦点を当てて書かれている。
 第1章の葬儀から始まって、婚儀、人生の節目、交際、贈答、会合と人生で遭遇するいろいろな機会での諸々の世の習慣がどのようにして定められたか、その理由を探っている。そしてそこには効率的にことを運ぼうとする工夫が込められていることを解き明かす。
 著者ご本人は「さしたる理由もないのに・・・結婚式も披露宴も省略し、区役所へ婚姻届を出すのみにて済ませた」と自らの行動を書きつつ、その行動が世間の常識から離れたものであったため「多くの人を無意味に途惑わせ、こういう不規則な事例に接して、どう対応したらよいか困らせる結果」となったことを反省を込めて書いていらっしゃる。
 葬儀に関しては、遺言に従ってあえて葬儀を身内だけで行った結果、後日「時を定めず予告もなしに来られる」多くの弔問客の対応に追われ、遺族は疲労困憊した、というような例も書いてある。
 その他、七五三、敬称、議論、六十歳、礼状、儀式挨拶、突然の指名、個展、二次会などなど多彩なテーマを2頁ほどで要領よく料理し、その心得るべき点を書いている。二次会の項では「最初に会費をしっかり取る計らいが肝心である」とあったのには、仲間内の二次会で後日の会費徴収に苦労していた幹事担当の友人を思い出し笑ったことである。
 時代の変化もあり、現在では通用しない考え方もあるが、書かれている急所は変わらない。