幸田真音の経済ホラー小説

幸田真音の経済ホラー小説

KEI(2022年3月2日)

 幸田真音さんは経済小説家であり、公的会議の委員や大企業の社外役員の経験もある。図書館から幸田真音の経済ホラー小説「財務省の階段」(角川書店)を借り出した。6つの短編小説で構成された読みやすい本だった。
 ホラー小説を読むのは初めてだったが、内容についてはほとんど覚えていない。ただ、「財務省の階段」は「財務省の怪談(?)」とチラッと思ったことだけは記憶している。
 小説の内容とは別に、文中で、彼女の持論だろうと思われる内容を登場人物に語らせているところは興味深く読んだようで、幾つかを乱雑な字で書き留めたメモは残っている。
 日本銀行の金融緩和政策に関連しては、「財務省の階段」で、次のように語らせている。
「高橋是清は、国債の日銀直接引受に踏み込んだが、当初から一時的な措置という認識だった。痛みをごまかす応急措置は、あくまで短期使用に限る。“麻薬” は長くは使えない。高橋自身はその早期使用中止を強く願っていたのだ」
 経済に疎い私は、国債の日銀直接引受や金融緩和政策の是非についてはよくは解らないが、コロナ禍の現在においては極めて妥当な策であり、当面は継続が必要だと思っている。
 そして、テレビの報道のあり方については、「ニュースの枠」の中で、次のように書く。
「神野は立場上も視聴率を無視できない。番組で取り上げるニュースの選択にしろ、取材姿勢にしろ、何があってもインパクト重視、視聴者の関心を集められる話題を最優先させようとする。一方、雅代はあくまで報道倫理をふりかざし、それが世の中にどんな影響を与えるかまで考慮が必要だと正論を口にして、神野の姿勢を厳しく諫めるのだ」。
 この文章は、かつて読んだ阿川弘之と阿川佐和子の往復書簡の形式をとった「蛙の子は蛙の子・・・父と娘の往復書簡」(筑摩書房)に書かれていた父・阿川弘之の文章を思い出させた。
 同書37頁で阿川弘之さんはテレビの報道番組に出演している娘の佐和子さんに父親としての気持ちを述べつつ、最後に山本夏彦さんの名言「人は困れば何を売っても許されるが、正義だけは売ってはならない。正義は人を汚すと聖書にある」をしっかと覚えておいてもらひたい、と書いている。
 宗教関係、特にキリスト教の知識に極めて疎い私なので山本夏彦さんの名言が、聖書のどこに基礎があるのかが分からなかった。私の友人には敬虔なクリスチャンがいないので、教えを乞う訳にもいかない。手元にある山本夏彦さんの幾つかの著書をざっと見た限りでは残念ながら該当する言葉や文章を見つけることができなかった。
 しかし、阿川さんが言うところの山本氏のこの言葉を私は今でもきっちりと覚えており、外部に対して意見を言うときには心のどこかでこの言葉を意識しているようだ。