司書の職場から O先生のこと

司書の職場からO先生のこと

I・S(2016年2月17日)

 時折来館されるにこやかな紳士で、洋書を何冊も申し込む方がおられました。当時まだ若かった私にまで帽子を取って頭を下げ、「お願いします」と言って帰られるような方でした。とてもすてきなおじさまなのですが、リクエストされる本はどれも洋書の専門書で、これは○○大学所蔵、こっちは××の施設にあり、などと借り受け先を指定していただいて、やっとたどりつけるような有様でした。届いた本を見ても何の分野なのかすらよくわからず、英語以外の言語のものもあって青くなった記憶があります。
 東京の某大学の教授を退官され、論文を書くために必要な資料を求めて図書館に来ておられたのだと、後からわかりました。大学図書館で依頼された方がいいのでは、と思うこともありましたが、大学図書館とのやり取りの仕方や、図書館以外の施設からも借り受けができることなどを学べた、いい機会でした。
 それから2~3ヶ月後だったでしょうか、カウンターで再び先生にお会いしました。
「お陰様で論文ができました」と丁寧にお礼を言われ、これを一つ差し上げます、と冊子になったものを下さいました。恥ずかしながら、本文はおろかタイトルさえ読めなかったのですが、ローマ字で先生のお名前があるのはわかりました。それから大学の名前、 professor の文字、その前に見慣れない単語がありました。同僚がすぐ辞書を引き、あのにこやかな先生が名誉教授だったと知りました。
 いただいた冊子は今も大事に持っています。内容は読めなくても、私にはどんな本よりうれしい贈り物でした。