「本の虫の本」

「本の虫の本」

KEI(2021年12月1日)

 実に面白い。本の虫は英語でbookwormというが、この「本の虫の本」(創元社)の著者たるbookwormsは林 哲夫氏ほか4名で画家、新刊書店員、古本屋店主、フリーライター、ジャーナリストと紹介されている。それぞれの方が、30編前後のエッセイというかそれともコラムあるいは随筆というのが正しいのか、1頁2段で4段ほどの短文を書かれている。
 それぞれの方が読書遍歴や職業経験から得た知識や自らの意見をきっちりと根拠を示して書いていらっしゃる。その意味では、本に関する知識や経験の宝庫と言ってもいい。読みながらそれぞれのテーマは本好きの友人との酒席の話題に持ってこいだな、と思ったことである。
 本の虫といえば、紙魚を思い浮かべる。著者の一人は「フナムシを細く小さくしたような銀色のあれ。シミ目シミ科の昆虫で、英名はsilverfish。寿命は7~8年と思ったより長い」と概説する。そしてセイヨウシミとヤマトシミについて述べ、紙に穴を開けるのはシミではなくシバンムシだと教えてくれる。
 そして自らの仕事との関係について、鹿児島県大隅諸島のある島に住んでいる人のご尊父の書籍を引き取った話に及び、そのご尊父は自らも敬愛する高名な学者であったと驚く。引き取った本の隙間から這い出してきた紙魚はふだん見かけるものよりも一回り以上も大きかったそうだ。
 最近では紙魚はほとんど見ることもなくなり、関西地域で時々見かける程度だと書いているが、私も最近は見たことが無い。
 上に述べた話は古書店店主の一文だが、著者の一人である画家は「ブック・マン」との表題のもと「本には目があります。眉があり、耳があります。口もノドもあります。・・・化粧をして、遊びが好きで、腰にバンドを付け、ジャケットを着て・・・」と8行の文章に19の書籍に関する言葉を連ねた洒落た短文を書いている。  ここで目とは紙の繊維の流れ目、眉とは和本の本文の上部の欄外の眉上(びじょう)、耳とはハードカバーの本で背の両側が溝に沿って少し盛り上がって広がっている部分・・・だそうだ。
 化粧は化粧箱、バンドは帯紙のことだとわかるが、遊びが書物の表紙と本文との間にあって両者の接着を補強する紙のうち接着されていない部分、ジャケットとは表紙の上に巻かれている紙(ダストジャケット)のことだとか、知らない術語が多い。
 書評あるいは書籍紹介文を書いているフリーライターは「おすすめの本」の中で、自分の仕事を初対面の人に説明するとかなりの確率で「何かおすすめの本はありますか」と聞かれることがあり、絶句すると書いている。
 それはそうだろう。何も情報が無い段階で「おすすめの本」と聞かれても適切な答を出すことができるはずはない。この質問に対し、著者はそのような場合は、質問者が男性なら吉村 昭、女性ならアン・タイラーと答えると書いている。恥ずかしながら、アン・タイラーは読んだことが無い。
 このような文章が約160編並んでおり、本の虫たちが楽しんで作った本である。一人の読者として面白く楽しく読んだ。